【アナリスト戦術記】なぜマンCは守備を固められても得点を奪えるのか。Jクラブも真似できないはずがないプレミア王者の攻撃

2022年09月02日 杉崎健

攻守でシステムを可変するマンCの戦術

今季も盤石の強さを見せるシティ。新戦力ハーランド(右)はここまで9得点(5節終了時)と期待に応えるパフォーマンスを披露。(C)Getty Images

 サッカーの奥深き世界を堪能するうえで、「戦術」は重要なカギとなりえる。確かな分析眼を持つプロアナリスト・杉崎健氏の戦術記。第5回目は、プレミアリーグ王者のマンチェスター・シティを取り上げる(編集部・注/分析試合は4節まで)。

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 Jリーグは全試合の3分の2を終え、終盤戦に突入している。優勝争いや残留争いをするチームが固まってきたなかで、監督交代や選手補強もあり、これまでと違う戦いを見せるチームも出てきた。残り2か月、順位の変動を含めて注目していきたい。

 この終盤戦の時期に、新たな戦術を落とし込むのは容易ではない。トレーニング時間は限られ、ミーティングのみでは浸透しないからだ。国内チームにおいて、年内に目新しい戦術がお披露目されることは少ないだろう。しかし、可能性はある。国外サッカーが開幕したことで、その「真似」をできるからだ。

 国外リーグは日本とは開幕時期が異なり、そのほとんどが8月にスタートした。日本のクラブに所属していると当然ながら海外のサッカーを満遍なく見るのは難しいので、断片的に把握するか、シーンごとにチェックすることになる。

 このコラムでそれを伝えるのも不可能なわけだが、せめて最高峰と言われるプレミアリーグ覇者の動向はお伝えしたいと思い、今回のテーマとした。マンチェスター・シティ(以下、シティ)である。

 普段から海外のサッカーを見ている方にとっては見慣れた話だと思うが、見ていない人やクラブに所属していて何か新しい刺激を入れたいと思っている指導者向けに発信できれば幸いだ。

 Jリーグでも攻撃と守備でシステムを変える可変を用いるチームは格段に増えた。シティも例外ではない。
 
 基本システムは1-4-3-3。アンカーは4試合すべてでロドリが起用されており、2人のインサイドハーフ、そして3トップだ。ただ、1-4-3-3という表記は、誤りとも言える。攻守で可変するわけだが、この並びでいることのほうが少ないからだ。

 守備時はインサイドハーフの一角が前に出て1-4-4-2の形となり、出ないインサイドハーフが下りてダブルボランチとなる。一方で攻撃時は、両SBが中に入ってきたり、インサイドハーフが下りたり開いたりするため、1-2-3-5のようなシステムになる。

 さらに言えば、この攻守の並びもまた可変する。相手がいるからだ。相手が中に人数をかけて守ってきた今季開幕戦のウェストハム戦では、左インサイドハーフのイルカイ・ギュンドアンが斜め後ろに下がってピックアップしたり、SBが必ず中に入るわけでもなく開いたり、試合中に変化が起こった。

 王者が相手なので、どの対戦相手もまずは守備から入ってきた。ウェストハムは途中で中盤の配置をクリスマスツリー型にしたり、ボーンマス(2節)は最終ラインに5枚並べ、ニューカッスル(3節)は中盤の5枚を並列させ、クリスタル・パレス(4節)も後ろの5枚を低く設定。しかしシティは、いずれの試合でも複数得点を奪い、第4節終了時点で3勝1分だった。

 なぜここまでされても得点が奪えるのか。攻撃面を深堀りしていく。
 

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