片野坂ガンバ終焉の舞台裏。「過剰リスペクト」や「遠慮」、「優しさ」が悲劇を引き起こしたか

2022年08月17日 飯間 健

シーズンが進むにつれてシステムや戦術も曖昧に

就任からわずか8か月でG大阪を去る片野坂監督。「私の力不足。本当に申し訳ありません」と悔しさを滲ませる。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 強いG大阪を取り戻す――。15年度天皇杯以降、タイトルから遠ざかっているクラブの再建を担った片野坂知宏体制は、わずか8か月で幕を下ろした。2年連続の監督交代。この悲劇を引き起こしたのは、指揮官とクラブ双方の「過剰リスペクト」と「遠慮」「優しさ(厳しく言えば甘さ)」だったのではないか。

 ビルドアップ戦術と機を見た鋭いカウンターアタック、そして積極的なプレッシング。一世を風靡した大分時代はピッチサイドで大声を枯らし、選手をシステマチックに動かす姿が何度も見受けられた。

 だがG大阪では、そこまで型にハメることはしなかったという。実力のある選手の判断や個性に配慮したのだろうが、それは逆にゴール前での連係・精度やピッチ全体での意思疎通に歪みを生む一因になったように感じる。

 シーズンが進むにつれてシステムや戦術も曖昧になってしまった。多くの試合で見受けられたのが"相手ありき"の戦い方。だが過密日程の中で徹底的に落とし込むことまでは至らない。圧倒的な個人技でチームを何度も救ってきた宇佐美貴史の長期離脱も相まって、自分たちがどう攻めるのか、困った時にどこに帰るのかベースも見えなくなっていった。
 
 勝てない日々。チームの形が定まらない日々。そして時間だけが過ぎていく危機感と焦燥。正確な日時は分からない。だが7月初旬前後だっただろう。強化部は片野坂監督について議論した。解任か続投か。揺れるなか、C大阪戦前に続投を決めたのは小野忠史社長だった。

 決して保身ではない。小野社長は三顧の礼で迎え入れた片野坂監督の手腕をまだ信じていた。一つキッカケがあればチームは変わると疑わなかった。そして"キッカケ"は新監督の松田浩氏のコーチ招聘だった。

 昨季の松波正信体制では10月に木山隆之氏(現J2岡山監督)をコーチとして招き入れ、残留に成功した。今季も違う角度からのアプローチができるベテラン指導者を入れることによる化学変化を試みた。ただ昨季の松波-木山体制は松波氏自身が望んだ人選。今回は違う。クラブ主導だった。
 

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