能動的な戦術メカニズムで健闘する鳥栖が、下位に沈む神戸に凌駕されたワケ【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2022年08月08日 小宮良之

前半戦で0-4と大敗

ここまで8位と健闘を見せている鳥栖。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 J1リーグ第19節、本拠地で戦うサガン鳥栖が優勢に試合を進めながら、ヴィッセル神戸に0-2と敗れた一戦は、サッカーの醍醐味に満ちていた。
 
 川井健太監督が率いる鳥栖は今シーズン、サッカーの仕組みを植え付けている。プレッシングにも、パス回しにも、戦術的なメカニズムを感じさせ、練度が伝わる。やるべきことを整理された選手が、能動的なプレーを重ねる中で、プレーを革新させ、降格予想が大勢を占めた中で躍進を遂げているのだ。
 
 一方で神戸はチーム内が混乱し、監督交代によって、カンフル剤を打って挑んできた。劇的にプレーレベルが上がるはずはないが、追い込まれた選手の士気は上がっていたし、何より有力選手が多い。ポテンシャルの点で、鳥栖を凌駕していた。
 
 結果、神戸が後半に2得点し、試合を制したわけだが、なぜ"波乱"は起こったのか。
 
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 鳥栖は前半戦で神戸に対し、立ち上がりに失点して0-4と大敗を喫していた。痛い目を見ていただけに、この日は用心深くスタートを切っている。ボールプレーの質で勝るだけに、やや優勢に試合を進めた。前半の終盤、ジエゴのヘディングや垣田裕暉シュートなどで決定機を作るも、GK飯倉大樹にセーブされてしまい、これも一つの潮目と言えるが…。

 鳥栖は慎重さだろうが、いつもよりもパス回しが遅かった。外せそうなところでも、攻めのパスが打ち込めない。センターバックが積極的に持ち上がってパスをつけるようなトライも少なかった。士気は高くても、相手を叩く力強さに欠け、手探りだった神戸に猶予を与えた。

「ひしぐ」
 
 宮本武蔵の兵法書「五輪の書」ではその大切さを説く。

 ひしぐ、とは、敵をあえて弱くみなし、自分は強い気を放ち、一気に押しつぶすことを言う。敵が狼狽えて弱みが見えた時、初めから優勢に乗じて、完膚なきまで打ちのめす。一気に押しつぶせない場合、しばしば相手が勢いを盛り返する。敵の足並みが整わないうち、立ち直れないくらいに打ち付けるべきなのだ。

 鳥栖は神戸を"生かしたまま"にした。ピッチの面子だけでなく、ベンチの面子を見ても、スコアレスのままで後半に入って新たに戦力を投入された場合、戦いは厳しくなるはずだった。案の定、大迫勇也など交代選手に押し切られる形で、あえなく失点を喫した。後半途中から、鳥栖の選手たちの足は暑さもあって完全に止まった。

 神戸は、サッカーの拍子を崩した鳥栖を思うがまま打ちのめした。個々の選手が力を発揮できるようになると、怒涛の勢いだった。勝つべくして勝ったと言える。

 鳥栖は神戸をひしぐことができず、勝機を逃した。もっとも、前半の決定機二つの一つでも決められたら、彼らのペースになっていたか。サッカーは因果なスポーツだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。


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