【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十六「人材枯渇の裏にある評価の矛盾」

2015年09月15日 小宮良之

実力のある若手の海外流出は、Jリーグにとって由々しき事態。

今季、インゴルシュタットに移籍した渡邉。捉え方は様々とはいえ、日本でプロに進まずに欧州挑戦したのは事実だ。昨年の長澤の例と同様、実力のある若手の海外流出は、Jリーグにとって由々しき事態と言える。(C)SOCCER DIGEST

 先日、18歳のFW渡邉凌磨がドイツ・ブンデスリーガのインゴルシュタットに電撃入団すると発表された。契約期間は4年。前橋育英高時代に高校選手権で準優勝を経験した渡邉はリオ世代、今年4月に早稲田大へ入学していた。
 
 このニュース、表裏の捉え方はあるだろうが、厳然たる事実としては"渡邉がJリーグ入りをしていない"ということ。日本のトップリーグが逸材からそっぽを向かれたのか、はたまた、彼の実力をJリーグ関係者が正しく評価できなかったのか――。
 
 実は昨年にも「大学ナンバーワン」と目された長澤和輝がJリーグ入りせず、ドイツのケルンに飛び込んでいる。実力のある若手の海外流出は、Jリーグにとって由々しき事態だろう。
 
 クラブ入団を決める材料としては、チームのビジョン、年俸、施設の充実など様々なファクターがあるはずだ。しかし一般的に現場の選手にとって、「適正な評価」こそが一番に欲しいものである。
 
「自分の良いところを言い当てられ、悪いところを指摘されると、それだけで信用できるし、モチベーションも上がる」
 
 多くのサッカー選手はそう告白するが、プレーヤーが指導者や技術、強化スタッフに求めるのは、まさにこの査定ポイントに尽きる。スカウティングの部分で想いが合致していれば、選手は自然に話に傾聴するわけだ。
 
「日本サッカーの人材は枯れつつある」
 
 その声は関係者の間で高まり続けている。ただ、そもそも人材発掘、成長促進の面で問題はないのだろうか?
 
 過去4大会のU-20ワールドカップでアジア予選敗退という結果を引き合いに出すまでもなく、アジア諸国との差は縮まりつつある。U-22代表合宿の視察をしたヴァイッド・ハリルホジッチ監督が、J2の京都サンガにも敗れたのを踏まえて「所属クラブで試合経験を満足に積めていない」と現状を憂えるのも当然だろう。

次ページ反発力は日本サッカー特有の現象であり、アドバンテージとも言える。

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