連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】首位の力を見せつけた鹿島 中心には「棟梁」小笠原の存在感

2015年09月07日 熊崎敬

駆け引きの上手さで終始、東京を圧倒した。

東京との準々決勝2試合で存在感を見せつけたのが36歳のベテラン、小笠原だった。 (C) J.LEAGUE PHOTOS

 2試合合計5-2。鹿島が東京を下して、ナビスコカップ準決勝進出を決めた。
 
 味スタでの第1戦はスリリングな展開の末、2-2に終わったが、カシマでの第2戦では3-0という大差がついた。
 
 7分、60分と金崎がミドルを突き刺し、後半アディショナルタイムには遠藤が技巧的な左足ボレーを捻じ込む。第2ステージ首位の力を見せつける格好となった。
 
 鹿島は伝統でもある駆け引きの上手さによって、終始、東京を振り回した。
 
 例えば、彼らはCKを取りにいくようなプレーをする。それは大きなチャンスであると同時に、確実に時間を使うことができるからだ。
 
 キッカーの小笠原がゆっくりとコーナーに向かう。
 ショートを使って、もう一度、CKを取ろうとする。
 セカンドボールを拾って攻め直す。
 
 本数自体は6本対2本と決して多くはないが、相手GKのミスで先制した後は、意図してCKを取りにいくようなプレーが目立った。
 
 もうひとつ面白いと思ったのは、一発の縦パスで敵の背後を取ろうとするトリッキーなプレーだ。鹿島は敵の背後を取ることに長けているが、終盤、そうしたプレーが何度も見られた。
 
 2-0とリードした77分、CB青木から引いて受けに来たカイオへグラウンダーのパスが送られる。ボールを奪って逆襲に転じたい東京は厳しく背後についていたが、カイオは踵を使った器用なプレーで後ろに走る金崎にボールをつないだ。金崎が独走、敵陣でFKを獲得する。
 
 その2分後にも土居が似たようなプレーを見せ、一発で東京の背後を取った。
 
 自陣からの縦パスをトリッキーに後ろにつなぎ、前がかりで奪いにくる敵の背後を一気に突く。こういう敵を心理的にも揺さぶるプレーが、鹿島は滅法上手い。恐らく、いつも練習しているのだろう。
 
 厳しくボールを奪いにいくたびに背後を取られると、敵はどこでボールを取りにいけばいいのかわからなくなってしまう。こうやって彼らは東京を心理的にも振り回し、77分にPKを獲得、これは金崎が外したが、終了間際に遠藤がダメ押しの3点目を決めた。
 
 攻守ともにピッチに立った選手たちがいい仕事をした鹿島だが、2試合を通じてのMVPには小笠原を推したい。彼は柴崎の穴を埋めて余りあるプレーを見せた。
 
 ここに来てほしいというところに確実に顔を出してパスを受け、前へ横へ後ろへとTPOに応じて的確にパスを出し、試合のリズムを創り出した。
 
 また守ってはセンターサークル付近でにらみを利かせ、東京の逆襲の芽をことごとく摘み取った。例えば14分には、西のパスミスから一気に攻撃に転じた米本を容赦なく潰す。この一発で米本と東京の出足を封じ込んでしまった。
 
 この3、4年、鹿島は世代交代が急務だと言われ続けてきた。だが、気がつけば彼らは課題を克服した。それは小笠原の功績が大きい。36歳のベテランはプレーを通じてサッカーの要諦や勝負の厳しさ、そして鹿島の精神を若いチームメイトたちに伝えたのだ。
 
 強い鹿島が帰ってきた。その中心に頼もしい棟梁、小笠原満男がいる。
 
取材・文:熊崎敬
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