【長崎】なぜ昨季の功労者、松田監督が解任されたのか? ブラジル人新監督に託されたJ1昇格

2022年06月13日 藤原裕久

松田監督解任までの経緯は…

J1昇格への道半ばで解任となった松田前監督。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 昨年5月に途中就任し、低迷するチームを再生させた功労者は、就任から約1年で現場を離れることになった。

 6月12日、リーグ折り返しとなるJ2第21節を終え9勝4分8敗で5位のV・ファーレン長崎は、松田浩監督に代わり、コリンチャンスなどで指揮を執ったブラジル人のファビオ・カリーレ新監督の就任を発表した。

「(J1昇格が)できると信じていなければ実際に昇格はできないし、少し前から選手たちにも、そう信じられる選手だけで戦うと話しています。好都合なことに混戦でまだまだ昇格の可能性がある。メンタルのところでミスすることなく、戦い抜いていきたい」

 解任が発表される前、リーグ戦に向けて松田前監督はこう語っていた。J2有数の戦力を擁し、優勝候補にも挙げられていた長崎にとっては、なかなか昇格圏に届かない現状は容認できないものがあった。指揮官の解任の可能性は常に漂っていたし、納得できない決断ではなかった。

 2018年からアカデミーダイレクターとして育成組織の再編や強化に尽力してきた松田前監督は、当時から監督業への思いは強かった。その名前がトップチームの監督候補として上がり始めたのは2020年末。手倉森誠監督の退任後からである。

 だが、このときの松田前監督は第一候補というわけではなく、あくまで名前が挙がっただけに過ぎなかった。その後、吉田孝行監督が率いたチームはポゼッションスタイルの向上を目指したが、開幕から躓き、11節を終わって11位という状況で、クラブはJ参入後初となるシーズン中の監督交代を決断。時間的・人材的に外部招へいが難しいなかで松田前監督に再建を託すことになった。同氏にとっては栃木SCを率いた2013年以来、8年ぶりの監督復帰である。
 
 就任後の指揮官は攻撃に意識が向かい過ぎていたチームの方向性を修正。守備の約束事を徹底し、トレーニングで求めるプレーができない選手は躊躇わずにスタメンから外し、チームを再編。安定した守備を軸に接戦を手堅く勝つことで調子を上げ、相手のスカウティングに苦戦する時期も若手の台頭で乗り切り上位に進出。惜しくもJ1昇格は逃したものの4位に食い込み契約を更改してシーズンを終えた。

 続投した前監督の目標は当然J1昇格。希望に添って栃木時代の教え子、クリスティアーノというJ1経験豊富な大物も獲得した。だが前年11月に「自らが来季の編成にかかわらないほうがチームにとって良いと判断した」として竹元義幸強化部長がシーズン終了を待たずに退任した影響もあってか、チーム強化がバランスを欠き、開幕からチームは波に乗りきれなかった。

「開幕から思っていたようには波に乗れず、指揮官として責任を感じております。選手・スタッフはそんな中でもここまでしっかりついて来てくれました。心から感謝しています。ここからチームが奮起して、必ずJ1昇格できることを祈っております」

 監督交代のリリースにはこう書かれ、同時にブラジル人の新指揮官就任も発表された。

 開幕から不安定な戦いを見せていたチームに対し、クラブは安易な監督交代を行なわない方針だったとされるが、開幕直後の3月には降格圏直前の20位に沈む。4月を3勝1分1敗とし、いったんは立ち直ったかに見えたが、5月は2勝1分3敗と負け越したことで監督交代の可能性が浮上、後任のリストアップも進められたと見られている。なかでも影響が大きかったと思われるのが5月25日の18節・千葉戦だ。

 千葉戦でチームは連戦を考慮し先発を8名入れ替えて戦い、千葉の5バックを崩すことができぬまま、ロングキックとサイド攻撃で効率良く攻めた相手に2失点。先発したクリスティアーノ、カイオ・セザールといった主力外国籍選手も力を発揮しきれずに敗れてしまった。この試合後に関係者が一室に集まる様を見て、その雰囲気から監督交代の可能性を感じた者もいたという。
 

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