【広島】このボールは譲らない! 浅野拓磨の秘める想いが溢れ出たPK志願

2015年08月30日 小田智史(サッカーダイジェスト)

「ゴールはFWとしては絶対に取りたいもの。(PKを)譲る気はなかった」

プロ入り後初のPKを志願して蹴り、見事にゴールネットを揺らした浅野。またひとつ新たな経験を重ね、選手としてステップアップを続ける。 写真:徳原隆元

「名古屋戦は自分にとって大事な試合になる」――。
 
 浅野拓磨はそう気合いを入れ、8月最後のホームゲームに臨んだ。その理由は、前回対戦で自らのパスミスをきっかけに失点して敗れたこと、そして自身初の日本代表に選出された8月上旬の東アジアカップで結果を残せなかったことに起因する。"リベンジ"への熱い想いが溢れ出たのが70分のシーンだ。
 
 ミキッチの縦パスに抜け出した浅野は、右サイドから果敢にドリブル突破を仕掛け、ペナルティエリア内で相手のファウルを誘発。倒された直後、転がっていたボールを拾いあげると、獲得したPKは「俺が蹴る!」と言わんばかりにボールを離さない。「蹴る気満々だった」という同期の野津田岳人もペナルティアーク近辺に陣取るが、一歩も譲らず。最終的には、DF水本裕貴が野津田を説得するように胸を軽く叩き、エリア外への移動を促した。
 
 浅野にとって、これがプロ入り後初となるPK。しかも、対峙するのはJ1最多出場記録(596試合)を更新し続ける百戦錬磨の楢﨑正剛だ。キャリアと実績を考えれば、相手の威圧感に委縮してもおかしくない場面だが、浅野は冷静にコースを狙いすまし、ゴール右隅にシュートを突き刺した。当初は左に蹴るつもりだったが、咄嗟に直感が働き、助走の間に逆方向に変更したという。
 
「自分はPKを蹴る時にGKは見ないし、歩数も決めていて、"自分の世界"に入ります。だから、ボールを(ペナルティマークに)置いた時から落ち着いていました。蹴る方向は、長めの助走の中で決めます。ただ普段は蹴る方向を事前に決めて、GKとの駆け引きはあまりしないんですが、(名古屋戦では)直感でギリギリになってコースを変えたんです。まあ、それでも楢﨑選手は結果的にコースを読んでいましたけど(苦笑)」
 
 PKを獲得した時点で、スコアは3-0。ドウグラスが2得点を挙げていたが、野津田に対してと同様、初のハットトリックが懸かる助っ人に対してもゴールチャンスを譲る気は一切なかった(ちなみに、試合後には逆にドウグラスから「大丈夫だ、決められる」とエールを送られたことを明かしている)。
 
「PKを譲って、ドウグラスにハットトリックをさせようという考えはなかったですね。ハットトリックは譲ってするものではないし、ゴールはFWとしては絶対に取りたいもの。もし、仮に外していたとしても、譲っていれば良かったという気にはならなかったと思います。結果的に、きちんと決めることができて良かった」

次ページPKを決めたことよりも、その後犯したミスのほうが先に頭に浮かんだ。

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