伊藤洋輝のポテンシャルを徹底解剖! プレス回避の“キャンセル”に見る優れた判断力

2022年06月05日 河治良幸

「守備は格段に良くなった」と指揮官も認める

パラグアイ戦で代表デビューを飾った伊藤。先制点の起点になるフィードなど随所に光るプレーをみせた。写真:金子拓弥 (サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 6月2日に開催されたキリンチャレンジカップ2022で、日本代表はパラグアイ代表に4-1で勝利した。最終予選の後半戦で採用した4ー3ー3で、インサイドハーフに鎌田大地と原口元気を起用するなど、本大会に向けた意欲的なテストも見られたなかで、やはり最大のサプライズとなったのが、初招集&代表デビューを飾った伊藤洋輝の左サイドバックだ。

 シュツットガルトでは3バックの左がメインポジションである伊藤は、左サイドバックの経験もあるが、デビュー戦でこのポジションというのは意外なトライではある。しかし、試合が始まってみると攻守両面でポジティブなプレーが多く見られた。

 もともと左利きの大型ボランチとして期待されてきた伊藤は、昨年のジュビロ磐田で3バックの左に定着し、シュツットガルでも同ポジションでレギュラーの座を掴んだ。2018年に東京五輪に向けたU-21日本代表に招集されていて、森保一監督もボランチの候補として選んでいたが、当時に比べて「守備は格段に良くなった」と指揮官も認める。

 今回は左サイドバックの候補として長友佑都、左利きの中山雄太、さらには菅原由勢も左右サイドバックをこなせるので、筆者の中でも最初は4バックでも左センターバックで起用されると想定していたが、実際は左サイドバックで三笘薫と縦のラインを組む形になった。

「前半はかなりゲームを支配できたと思うし、何とか良い攻撃参加から薫君とのコンビネーションでチャンスも作れたと思う。ただ、もっともっとクオリティと、その回数を増やさないといけない」

 伊藤がそう振り返るように、攻撃のキーマンであるリカルド・サンチェスを封じる仕事をこなし、得意の左足で三笘や鎌田に縦パスを供給するだけでなく、機を見た攻撃参加で何度もチャンスに絡んだ。開始5分には三笘を内側から追い越して、ノートラップで左足のマイナスクロスを上げ、堂安律の惜しいシュートにつなげた。

 このシーンでは右サイドで堂安が起点になり、パラグアイのディフェンスを引きつけて左サイドの三笘に展開することで、ちょうど相手の右サイドバックとセンターバックの間に生じるスペースを見極めて侵入する形だった。

 浅野拓磨と鎌田がボックス内で縦に走ることで、センターバックが引っ張られる手前のスペースを堂安が逃さず、伊藤もボールを受けるところで中を見て上げており、明確な狙いと冷静さが光るプレーだった。
 
 筆者が気になったのは19分のシーン。最終ラインの組み立てで、三笘が左ウイングの位置から引いてボールを受けようとすると、右サイドバックのルイス・サラテがそのまま付いていこうとした。それを見逃さなかった伊藤は大外から一気に加速する。

 その動きに応じて左センターバックの吉田麻也が三笘につけるが、パラグアイは右サイドハーフのサンチェスとサラテでマークを受け渡して、サラテが臨機応変に伊藤のマークに来た。

 三笘はワンタッチで外の伊藤につなぐが、そのまま行くのが難しいと判断したのか、伊藤は三笘にリターンして、二人でパス交換したあとにアンカーの遠藤航を使って、パラグアイのプレスを回避した。

 ある種のキャンセルだが、ここから日本はGKのシュミット・ダニエルを起点に右サイドへ展開して、右サイドバックの山根視来のパスから堂安のCKを獲得するシュートにつながった。サイドバックのスペシャリストであれば、強引に仕掛けて攻め切ってしまう選手もいるかもしれないが、伊藤らしい状況判断が目を引くシーンだった。
 

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