“イニエスタ戦術”の浸透と比例して直面する課題。「差」を縮めるか、別の価値観を見出すか…【神戸】

2022年05月19日 白井邦彦

過去にも多かれ少なかれ直面してきた課題

別格の存在感を示すイニエスタ。希代のプレーメーカーの不在時にチームとしてどう戦うべきか。最適解が見つかれば“上昇”または“常勝”の道も開かれてくる。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

[J1第11節]神戸0-1川崎/5月18日/ノエビアスタジアム神戸

 ACL組による対戦となったJ1第11節の神戸対川崎は、後者が後半アディショナルタイムの谷口彰悟による劇的ゴールで勝点3を手にした。川崎はこの勝利で鹿島を抜いて首位に浮上。敗れた神戸はJ2降格圏内(17位)からの脱出とはならなかった。

 前半は川崎がボールを握り、神戸が守備を固める展開だった。布陣は川崎が前節と同じ4-3-3、神戸は今季初勝利をマークした前節と同じ4-2-3-1。守備時には4-4-2の3ラインを保ち、中央にカギをかけて攻撃を跳ね返した。

 そのなかで、川崎はサイドチェンジを織り交ぜながら"幅"を使って神戸を揺さぶっていく。だが、神戸の連動した守備を崩せず前半を0-0で折り返した。ロティーナ監督らしい堅実な戦い方を見せた点では、前半は神戸ペースだったという見方もできるだろう。

 一転、後半は神戸がロングボールを使って川崎守備陣の背後を突いていく。川崎の"幅"に対して、神戸は"縦"で揺さぶりをかけた。後半開始早々に菊池流帆のフィードに汰木康也が抜け出して決定機を作ると、その後には汰木のドリブルから武藤嘉紀、郷家友太と繋いで、最後は山口蛍がフリーでシュートを打つ絶好機も作った。

 だが、ゴールを決め切ることができず。試合後、ロティーナ監督は敗因を「先制点を決められなかったところが一番大きかったかもしれません」と語った。

 結果は敗戦だが、内容的には互角だったと見ていいだろう。特に、アンドレス・イニエスタが絡む攻撃時には川崎を凌駕していた。言い方を変えると、イニエスタを中心に据えた戦術がかなり浸透していた。

 前節のサガン鳥栖戦もそうだったが、川崎戦でもイニエスタがドリブルで相手を剥がすことで数的優位を作った。その状況を相手陣内で作り出せる神戸のシステムは、完成度が高まれば高まるほど相手の脅威になっていくだろう。

 だが、同時に"ある課題"にも再び直面することになる。イニエスタがピッチに居る時と居ない時でクオリティに差が出るのだ。
 
 川崎戦では73分にイニエスタが下がり、井上潮音が入った。東京ヴェルディ時代にロティーナ監督と共闘した井上も良い働きを見せたが、やはりイニエスタと同じようにはかない。

 過去にはアカデミー育ちの安井拓也を起用したり、最近では同じくアカデミー出身の中坂勇哉をイニエスタと同じポジションで使ったりしている。

 もちろん、違うリズムを作り出す点では彼らの起用は一つのオプションとなる。だが、イニエスタと同じ働きを求めるとクオリティに差が出てしまう。フアン・マヌエル・リージョ体制でも、トルステン・フィンク時代も、多かれ少なかれ直面してきた課題だ。

 とはいえ、この課題が浮き彫りになるということは、チームとしての成熟度が高まってきている証拠でもある。イニエスタがいる時といない時のチームパフォーマンスの差を縮める、あるいは別の価値観をチームとして出すことができれば"上昇"あるいは"常勝"の道も開かれてくるに違いない。その点で今節の川崎戦は、敗れたものの実りある一戦だったと言えそうだ。

取材・文●白井邦彦(フリーライター)

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