女子サッカーに未来はあるのか。“WEリーグ”に託された使命。プロ化初年度の収穫と課題

2022年05月19日 西森彰

キックインイベントでレジェンド2人が登場

WEリーグで初の国立開催となったI神戸対浦和Lの一戦は、1-0で後者が勝利。スタジアムには1万人を超える観客が足を運んだ。(C)WE LEAGUE

 5月14日、新国立競技場でWEリーグの試合が初めて開催された。

 前節でWEリーグ初代女王の座についたINAC神戸レオネッサと、皇后杯のチャンピオン・三菱重工浦和レッズレディースの一戦は、好天にも恵まれ、観客は1万1,763人を数えた。目標とする平均観客数5,000人に届かない試合が続いていたWEリーグとしては、初めての観客1万人超え。大勢の観客の拍手やサポーターの太鼓が、国立の屋根に反響し、選手の気持ちを盛り上げた。

 その熱気にも押されるかのように、頂上決戦は、好内容の試合になった。浦和Lホームの前回対戦(I神戸が2-0で勝利)とは逆に、浦和Lの攻撃をI神戸が受ける時間帯が長くなった。そして41分、塩越柚歩がタッチライン際で粘って戻したボールを、ベテランの安藤梢がシュート。これが決勝点となり、浦和Lが1-0で頂上決戦に勝利した。

 この日、キックインイベントで登場したのが、日本女子サッカー界のレジェンド・澤穂希氏と宮間あや氏だった。2011年の女子ワールドカップ優勝の興奮冷めやらぬ、なでしこリーグでは、両氏の所属チームが対戦(I神戸対岡山湯郷Belle)し、2万1,236人の観衆も集まった。当時のブームに近づき、これを超えるために、どうすればいいのか。そのための方策を澤氏に尋ねると、こんな答が返ってきた。

「リーグ戦がどこで、いつやっているかが世間に知られてないのが現状で、WEリーグの課題としなくてはいけません。ひとりでも多くの人に『プロリーグをやっています』『こんなチームがある』『こういう選手がいる』というのをもっと発信していかないと、多くの人に伝わらないので、そういうところはもっと改善しなくてはいけないなと思います」

 今回の国立開催が成功したのは、澤氏が挙げた課題が、解決されていた点にもある。
 
 国立でホームゲームを主催したI神戸の安本卓史社長は、この一戦を3月1週目に発表すると同時に、「そこまでにWEリーグで優勝を決める。5月14日の新国立競技場で、皇后杯優勝チームとの頂上決戦に臨む」というテーマを掲げた。東京都、神奈川県、千葉県など首都圏のサッカー協会の協力に、交通広告、さらには個人ネットワークまで、告知と集客に力を注いだ。

 舞台となる新国立競技場。今季タイトルホルダー同士の対戦。菅澤優衣香(ここまで12得点)と田中美南(同9得点)の得点王争い。女子サッカーにそれほど詳しくないファンにも分かりやすい注目ポイントも揃っていた。さらに、運営面では、アウェーの浦和Lをはじめとする他クラブのスタッフやボランティア、サポーターの後方支援もあった。

 好条件が揃っていたとはいえ、試合に携わる人間が好機を見抜き、努力を惜しまなければ、「人気が低下した」と評されることの多い現在でも、ピーク時の半分は集められる。それが、今回のI神戸のチャレンジで証明された。
 

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