日本人アタッカーと「プレミアの呪縛」 岡崎慎司が成功するために必要なものは?

2015年08月15日 山中忍

もっと中盤を経由して攻めるチームであれば中田の存在感も…。

日本人アタッカーにとっては鬼門とも言えるプレミアリーグで、岡崎は成功を収められるのか。先達を苦しめてきた「呪縛」を解くために必要なものとは――。 (C) Getty Images

 2001年の西澤明訓のボルトンへの移籍を皮切りに、これまで5人の日本人アタッカーがプレミアリーグに足を踏み入れたが、いずれも「サッカーの母国」で苦悩を味わった。
 
 彼らはなぜ、イングランドで満足な結果を残せなかったのか。新たな挑戦者、岡崎慎司が成功を収めるために必要なものとは――。
 
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 成績はともかく日本のワールドカップ出場が当たり前となった昨今、日本人選手の印象を英国人に尋ねると、「巧い」と答える人は少なくない。一方、「弱い」という返答も多く聞かれる。
 
 プレミアリーグで主力に定着した日本人がひとりもいない事実を「フィジカル不足」のひと言で片付けるつもりはない。しかし、「強さ」が必要条件であることは間違いないだろう。
 
 それは、サウサンプトンで定位置確保に苦戦する吉田麻也のようなDFのみならず、今夏にレスター入りした岡崎慎司のようなアタッカーにも当てはまる。
 
 2001年に、和製FWとしてプレミア挑戦の先陣を切った西澤明訓は、ポストプレーやボールキープもこなせるストライカーのはずだった。にもかかわらず、ボルトンでの出場はカップ戦3試合のみ。
 
 翌年、サム・アラダイス監督に、正味半年強の短期間で去った西澤の感想を訊いてみると「レイジー(怠慢)」のひと言で片付けられた。本当に能力以前にサッカーへの姿勢を疑問視されていたのだとすれば、短期間で終わるべくして終わった挑戦だったのかもしれない。
 
 そのアラダイスが06年夏、ボルトン移籍翌年での引退を惜しんだ日本人が中田英寿だった。リーグ戦21試合で1得点という数字はインパクトに欠けるが、プレミアでの2年目が実現せず残念がっていたのは、イングランドの記者陣も同様だった。
 
 ミックスゾーンでの英語力ではなく、ピッチ上での「強度」が十分なレベルにあったが故の反応だ。
 
 確かなテクニックと優れたビジョンを持っていても、パスやシュートを放つ前に潰されてしまってはどうしようもない。「思ってもいないところに足が出てくる」と言っていたのは、稲本潤一だ。
 
 アーセン・ヴェンゲル監督に呼ばれたアーセナルでは戦力になれなかったものの、2部リーグ時代を含む4年間をイングランドで過ごした。このボランチでさえ感じた体格差があるうえに、速く激しく身体を寄せてくる敵のプレッシャー下でボールを捌くことは容易ではない。
 
 その点、中田にはプレミア標準以下の体格を補える体幹の強さがあった。味方が信頼してボールを預けられるMFだったのだ。
 
 ボルトン移籍前の話だが、01年3月に水浸しのサンドニのピッチで日本がフランスに大敗した試合を観戦したヴェンゲル監督が、「日本はひとりだけレベルが違っていたね」と中田を評した言葉が思い出される。
 
 アラダイスのボルトンが、もっと中盤を経由して攻めるチームであれば中田の存在感も増していたはずだ。

次ページ香川には信頼を勝ち得るだけの「強さ」がなかった。

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