“川崎ユニット”導入の効果。森保ジャパンでの生かし方とは?

2022年03月31日 江藤高志

代表のユニットに昇華させるには

VARでオフサイドの判定となったが、ベトナム戦でネットを揺らした田中。川崎の出身選手で中盤のキーマンになっている。写真:田中研治(JMPA代表撮影)

 最近では川崎フロンターレ所属の選手、もしくは出身者が増えている森保ジャパン。カタール・ワールドカップ最終予選、本大会の出場権を獲得したオーストラリア戦でも、いわゆるその"川崎組"の活躍を見て、強豪クラブのユニットを代表チームに導入した際の有効性について、普段から川崎を追う身として考える機会は増えている。

 例えばオーストラリア戦の89分、三笘薫が決めた先制点の場面は、川崎で言うところの"ニアゾーンの攻略"が表われていた。右SB山根視来から相手エリア内にいたMF守田英正へのパスがスイッチになり、ペナルティエリアの右、端っこのゾーンを取る山根の動きは川崎がJリーグで見せてきた崩しの典型的な形だった。

 そこであの先制点の場面でもピッチにいた上田綾世(鹿島)の視点と、山根の視点を、最終戦のベトナム戦の前に訊いてみた。Jリーグでフロンターレが見せているような崩し、連係を代表へ導入する手応えについてだ。

 上田はその質問に戸惑いの様子を見せただけに、申し訳ないことを訊いてしまったと思いつつ、彼は「僕は僕なりの動き方があったと思うし、別に川崎の形にはめる必要はないと思います」とコメント。確かに川崎のユニットの連係にどんな場面でも合わせるのではなく、自らの特長を出すことが大切なのだろう。

 もちろん川崎のユニットが局面打開の力を持っており、そこに多くの人数が絡めれば決定機の数は増えるはず。ただ逆に言うと、上田の良さを"川崎ユニット"が把握し、このストライカーに合わせる作業があっても良い。練習の時間は限られるだけに難しい面もあるだろうが、今後の伸びしろとも言えるだろう。

 
 ちなみにオーストラリア戦で、前述したように三笘のゴールをアシストした山根は、川崎のユニットについてこんな見解を口にしている。

「あのシーンだけ切り取ると、(連係したのは)守田と薫でしたけど、フロンターレのやっていることを全部やればいいっていうことではないと思っています」

 そう答え始めた山根は「守田に当てて入るっていうシーンは、守田が感じてくれたシーン」と語りつつ「それが良いみたいな、こうしなきゃいけないとかっていう話ではないのかなと思います」と振り返る。

 改めて十分な練習時間が確保できない場合、代表のチーム作りでは、国内で結果を出す特定チームのユニットの組み込みが有効になる場合がある。ただ、川崎のユニットがこの2シーズンのJリーグで強さを見せ、その主要プレーヤーを代表で並べるのがチーム作りの近道ではありそうだが、最適解かは様々な条件で変わってくる。

 ちなみにベトナム戦の70分。VARを経てノーゴールになった田中碧のシュートの場面(上田が放ったシュートが南野拓実にあたり、そのこぼれ球を拾った田中がシュートを決めた。ただVARで取り消しに)。上田はシュートを放ったが、もしかしたら背後に飛び込んでいた田中にヒールパスを通す選択肢もあったかもしれない。ただ、例えば川崎のFW知念慶が同じ場面でヒールパスを選んだかというと、シュートに行っていたのだろうと思う。

 代表は、言わずもがな個性が評価された選手が集まってくる場所だ。だからこそクラブのユニットを持ち込むのは強化のひとつの手法だが、最終的には選手の個性を引き出す方向で調整する必要がある。

 つまり、今般のワールドカップ最終予選中に効果が認められた川崎のユニットは、それだけで完結するのではなく、その他の代表選手の個性を取り込んで、代表のユニットに進化していく必要があるということ。もちろん現時点では川崎のユニットが、その中核を担う存在になっているのは間違いない。

取材・文●江藤高志(川崎フットボールアディクト)
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