なぜ、カズはカズであり続けるのか――鈴鹿移籍の舞台裏と、何も「変わらない」奇跡

2022年01月11日 牧野真治

最終的に決断したのは昨年末のクリスマスの夜

JFLの鈴鹿に新天地を求めたカズ。横浜FCのファン・サポーターへは「数々の思い出や誇り、感謝の気持ちを胸に、新しいチャレンジに踏み出します」と伝えた。写真:滝川敏之

 2022年もまた「カズダンス」が拝めそうだ。それもJ1でもJ2でもJ3でもない。4部リーグに相当するJFLのピッチで。

 例によって「11番」にちなんだ1月11日の午前11時11分。横浜FCはFW三浦知良(54)の鈴鹿ポイントゲッターズへの期限付き移籍を正式発表した。54歳の選手に対し、J2から関東2部まで8クラブが獲得オファーする前代未聞の争奪戦は、従来から最有力だった鈴鹿に決着した。最終的に決断したのは昨年末のクリスマスの夜。そう、あのダンスの直前だった。

 昨年12月26日。日産スタジアムのピッチでカズは華麗にステップを踏み、腰をくねらせていた。一緒に出場していた40歳の石川直宏が、34歳のハーフナー・マイクが少年のような笑顔で見つめていた。現役とOBの選手が集結した「ジャパン オールスターズ 2021」。カズは鮮やかなゴールを決め、当然のように主役となった。

 やっぱりカズは凄い、人を幸せな気分にさせてくれる。そして試合後、カズは初めて報道陣に「(移籍先は)絞れている」と明かしたのだ。決意のダンスでもあった。
 
 昨季のカズは屈辱にまみれた。横浜FCで与えられたリーグ戦の出場時間はたったの1分。だからこそオフのエキシビジョンマッチにも喜んで参戦した。きっかけは監督を務めたラモス瑠偉氏からの電話だ。「試合をやるから来い!」。大阪府内で自主トレ中のカズは詳細を聞くよりも先に快諾した。「試合に飢えていたからね」。前半20分。左45度のエリアから右足インフロントでカーブを描き、美しいゴールを決めた。そしてダンスは始まった。

 このワンシーンにカズの矜恃が見て取れる。試合後「リラックスした感じで力が抜けていたから入りましたね」と得点を振り返った。あまりにさらりとした口調だが、エリア内で好機を迎えた際、どれほどのFWがリラックスしてボールと向き合えるだろう。しかも実戦は昨年5月のルヴァンカップ以来だった。

 試合に出られない日々も不平不満を漏らすのではなく常に100%の準備をし、来るべき出番に備えてきた。この日もカズは専属マッサーを同行。ロッカー室に簡易ベッドも持ち込み、入念に身体を手入れした。公式戦さながらの準備だった。ピッチに立てば結果は残す――。カズがカズであり続ける真髄を見た気がした。
 

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