連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】世界一激しい南米の「カンチャ」で日本の“球際”に思いを巡らす

2015年07月16日 熊崎敬

恐ろしく深いタックルが次々と繰り出され、応援団が雄叫びをあげる。

カンチャと呼ばれる草サッカー場で激闘を繰り広げる地元のアマチュアプレーヤーたち。ウルグアイのカンチャはとにかく球際が激しい。 写真:熊崎敬

 コパ・アメリカが閉幕して、すでに10日が経った。チリ中が狂喜乱舞したお祭り騒ぎは、遠い過去の出来事のように思える。
 
 そして私は、まだ南米を旅している。
 
 アンデス山脈をバスで越えてアルゼンチンに入り、ブエノスアイレスでフェリーに乗り継ぎウルグアイまで足を延ばした。そのウルグアイの首都モンテビデオの「カンチャ」で、かなり壮絶な試合に遭遇することになった。
 
「中指」ハラの故郷を訪問したときにも紹介したが、カンチャとは都市郊外や田舎町の至るところに点在するサッカー場のこと。平日の夜や週末のたびに、地元アマチュアによる膨大な数のゲームが繰り広げられる。
 
 旧市街の宿で借りた自転車に乗り、湾岸を走っていた私は早速、カンチャに出くわした。「バリオ・スル・ペニャロール(以下BSP)」と「ラ・バンダ」の一戦。ゴール裏には横断幕が張り巡らされ、大勢の見物人で盛り上がっている。
 
 私がタッチライン際で写真を撮っていると、案の定、応援団や野次馬に囲まれた。多くは地元の兄ちゃんやオヤジたちで、辺り一面、マリファナの匂いが立ち込めている。これがカンチャだ。ローカルの試合は大抵、観光客や余所者が立ち入らないようなところで行なわれている。
 
 少年たちの目が自転車に釘づけになっていたので、強奪されることを恐れた私は逆サイドから試合を観戦することにした。そのゲームというのが、コパ・アメリカに負けずとも劣らない荒々しい一戦だった。
 
 私はチリでもカンチャ通いをしたが、ウルグアイのカンチャの荒々しさはチリの比ではなかった。
 
 恐ろしく深いタックルが次々と繰り出され、そのたびに応援団が雄叫びをあげる。後半になるとタッチライン付近の危険なタックルで、BSPの選手が退場に。優位に立ったラ・バンダが攻勢に出て、FKから先制する。
 
 ところがBSPは粘りに粘り、終盤、CKのこぼれ球を豪快に突き刺し、同点に。試合は一気に白熱し、最後の10分は大荒れになった。
 
 抜け出しかけたラ・バンダの選手を追走したBSPの主将が二度三度と腿の裏を蹴り上げて豪快に倒すと、審判がカードを出さなかったことで小競り合いが勃発。そこにラ・バンダ応援団のオヤジがビール瓶片手に乱入したのだ。
 
 ラ・バンダの選手が審判に食って掛かるオヤジを羽交い絞めにして、ピッチの外に連れていく。オヤジは怒りが収まらず、通りを走るバスに思い切りビール瓶を投げつける。
 
 これで事が収まったわけではなかった。
 
 今度はラ・バンダの監督が、タッチラインを越えて審判に食って掛かったのだ。やっとの思いでオヤジを排除した選手たちは、今度は監督を必死に引き離す羽目に。その後は、ひたすら感情的な激しいタックルの応酬が続くことになった。

次ページ球際での意地の張り合いが延々と続く――。

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