「笛吹けども踊らず」指揮官シメオネの弱気がチームを挫く。「前へ、前へ」と叫び続けても…【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年12月14日 小宮良之

能動的に戦ってきていないツケが出た

CL5節のミラン戦では、消極的な策が裏目に出たシメオネ。(C)Getty Images

<笛吹けども踊らず>

 これは新約聖書の一節から発した言い回しである。人に何かをさせるつもりで様々に手立てを調えて誘っても人が応じない、という嘆きというのか。それが転じ、スポーツ界では、リーダーが叱咤しても思うように選手が動かず、一敗地にまみれた時に使うことが多い。
 
 ただ、これはリーダーの傲慢に寄り添ったフレーズとも言える。なぜなら選手を導けないのは、まさに監督の問題だからだ。

「惰性で練習をやっている選手がいる」

 そんな不満をメディアに向けるような監督は、ほとんど命脈を断たれている。選手の集中を高め、一つに束ね、高い質のトレーニングを行わせることが監督の職務。選手がそのような状況だったら勝てるはずはなく、それを改善することこそが監督の仕事であって、メディアに愚痴るなどあるまじき行為で、完全に末期である。

 笛を吹いたら踊ってくれるなら、誰だってできる。
 
 一方で、試合におけるちょっとした空気感で、この現象が起きることもある。
 例えば、アルゼンチン人監督のディエゴ・シメオネは選手に対する求心力がある。その言葉は一言ひとことが強く、熱く、選手を引き付けられる。稀代のモチベーターと言えるだろう。
 
 しかし、弘法も筆の誤りというのか。今シーズンの欧州チャンピオンズ・リーグ、グループステージ第5戦、ホームのACミラン戦で見せた采配は、まさに「笛吹けども踊らず」の現象が起こっていた。

 シメオネ自身はベンチの前で、「前へ、前へ」と叫び続け、チームを鼓舞していたが、ペースを握れない。相手がブラヒム・ディアスを中心にしたボールゲームで、果敢に攻撃を仕掛けてきて、受け身に回ってしまったのはあるだろう。ただ、そもそもチームとして能動的に戦ってきていないツケが出てしまった。

 何より後半途中から、シメオネは明らかに「負けなければいい」という空気を出した。ルイス・スアレス、アントワーヌ・グリーズマン、ロドリゴ・デ・パウルなどを次々に下げ、ディフェンシブでフィジカルな選手を投入。0-0で乗り切ろうとする色気が見えた。それで十分、最終戦に向けて優位に立てるからだ。

 しかし、勝利しないとグループステージ敗退が濃厚になる相手の捨て身の攻撃を受け、アトレティコは終了間際に失点した。指揮官の弱気が、チームを挫いたのだ。

 結局、それだけ監督のメンタリティはピッチの選手に影響するということだろう。

<笛吹けども踊らず>
 
 意図しなかった笛の音色が、チームを惑わすこともある。
 
 文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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