リーガで首位争いをするR・ソシエダは、なぜ下部組織から数多の“戦える選手”を輩出できるのか【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年11月23日 小宮良之

メンタルを自分で操ることは難しい

リーガで暫定2位につけるソシエダ。オジャルサバル(右から2人目)ら下部組織出身の選手が主力を担う。。(C)Getty Images

 サッカーの勝負を語る時、メンタルは最も使われる言葉かもしれない。
 
 強いメンタル、弱いメンタル。たしかに、それは勝敗を左右するだろう。
 
 選手は心理的に健全な状態であれば、いつもの力、もしくはそれ以上の力を発揮できる。その点、メンタルはとても大きな作用を持っている。どれだけフィジカルやテクニックを鍛えたとしても、本来の力が出せなかったら、相手に引き回されることになるからだ。

「物事がうまくいっているときは、何をしてもうまくいくものなんだよ。でも、うまくいっていないときは、何をしてもうまくいかない。どうしてそうなってしまうのか、長い間プレーしていても回路は分からなかったんだけどね」
 
 スペインの古豪、レアル・ソシエダ一筋に532試合に出場したシャビ・プリエトは、キャプテンとしてチームメイトから信頼され、安定感のあるプレーが絶賛されたMFだ。2017-18シーズン、惜しまれつつスパイクを脱いだプリエトは、「メンタルは制御不能だ」と語っていた。

「自分はふざけてプレーしていたことなんてないよ。一度もない。全力のつもりだった。でも、メンタルが良い状態の時はとにかく、良いイメージが広がる。どんどんプレーが良くなって、自信が力に代わっていく感覚があるんだよ。でも、調子が悪くて落ち込んでいるときは、まるで反対のことが起こる。何をしても思い通りにならない。例えば、失敗した試合のビデオを見返して修正しよう、と思うんだけど、メンタルが良くないからか、良くなる気がしなくて、むしろ自信を失って…」
 
【動画】ソシエダが生んだスペイン代表FWオジャルサバルのプレー集
 メンタルは感情に近く、それを自分で操ることは難しい。アクセルも、ブレーキも、勝手にかかってしまうものだ。
 
 そこでスペインの古豪、レアル・ソシエダは共闘精神を第一に掲げている。仲間のために、率先して行動ができるか。お互いが助け合う、という行動規範を鍛えることによって、大きく崩れることがないプレーができるようになるという。

 おかげで、レアル・ソシエダは下部組織から戦える選手を数多く輩出している。仲間を助ける強さは、己も強くする。己を強くするには仲間を助ける。シンプルな連鎖論理だ。

 その精神をユース年代から叩き込まれた選手たちは、正念場で勝負強さを見せる。プライドを持って戦うことによって進むべき道を示し、周りもそれに呼応し、相互作用となる。まさに、サッカーという集団スポーツの根源的な美しさと言えるだろう。そこでは、才能と呼ばれるあやふやなものなど、大した価値はない。

 共闘精神は、メンタルを支える。クリスチアーノ・ロナウドのように「主役となるエゴ」も、その派生と言えるかもしれない。そこに集団として勝利する発想があった場合、強いメンタルになるからだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
 

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