二枚看板が離脱…それでも川崎が強かったワケ。脇坂泰斗らの言葉に滲み出た「勝者のメンタリティ」

2021年11月06日 加部 究

【識者コラム】川崎の強さを支えた在籍選手たちのメンタルのバランス

優勝を決めた浦和戦後、涙が止まらない旗手を抱きしめる脇坂。一時の苦境を乗り越え、川崎が連覇を達成した。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 かつてバルセロナのカンテラ監督経験者に、伝統的に息づく勝負強さの要因について尋ねたことがある。彼はそれを「勝者のメンタリティ」という表現で答えた。ある育成年代でのトーナメントでドルトムントと引き分け、規定では次のラウンド進出は抽選で決めることになっていたそうだ。ところが納得のいかない選手たちは大会役員に直談判をして、翌朝一番で再戦を実現させ快勝した。絶対に負けを享受せず、どんな時でもとことん勝ち切ろうとする。バルサのカンテラの選手たちには、そういうマインドが染みついているという話を思い出し、東京五輪で4位に終わった時の久保建英の号泣も腑に落ちた。
 
 バルサのシャツを着たら負けてはいけない。それは大人が説いたものではない。歴史がプライドを育み、子どもたちの間にも自然に宿り意識は浸透して来た。逆に歴史のない日本の指導者たちは、苦境や理不尽を乗り越えさせることで植え付けようとしたが、効果があったとしても国内シーン限定だった。

 連覇を達成した川崎フロンターレの選手たちは、静かに歓びを噛みしめていた。もちろん土壇場で浦和レッズに追いつかれながら、2位の横浜F・マリノスが敗れたという展開も影響している。しかし今年副将を務めた脇坂泰斗をはじめ何人かの選手たちからは「ホッとした」という言葉が出ていた。一方実質2年目の旗手怜央は涙を流し、ルーキーシーズン後半を不可欠のアンカーとして闘い抜いた橘田健人は「まさか優勝を決める試合のスタメンでプレーしているとは思わなかった」と新鮮な驚きを表し、「こういうチームでプレー出来ているのは幸せです」と語った。

 副将を任されたとはいえ、まだ脇坂はJ1でプレーし始めて3年目だ。しかしクラブでユース時代を過ごし、特別強化指定時代も合わせれば川崎の在籍は8年間になる。鬼木達体制での4度の優勝を内部で体感し、頂点にかすりながら届かない時代も見て来た。歓喜より安堵が先立つのは、やはり「勝者のメンタリティ」が宿り、戴冠することが重大な責務だと感じていた証だろう。

 川崎の強さを支えているのは、こうした在籍選手たちのメンタルのバランスなのかもしれない。大ベテランの域に入ったチョン・ソンリョンや家長昭博を筆頭に、伝統を築き上げて来た中堅以上の選手たちは「川崎は負けてはいけない」という姿勢を率先して示す。逆にそれを見て若い選手たちも、ここでポジションを獲得する厳しさと基準を知り、必死に突き上げる。そして新しい選手たちはもちろん、ベテランまでもが川崎へ来ると上達していく流れを見て、誰もが憧れを抱くようになる。逆にこうした黄金のサイクルが出来てしまえば、クラブもフィットしそうな選手を獲得し易くなるわけだ。
 

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