【コパ・アメリカ】ぶらり旅@チリ「チリサッカーの原風景、そして“中指”ハラの原点を訪ねて――」

2015年07月04日 熊崎敬

田舎町に点在する「カンチャ」で選手はプロ意識を身につける。

 楽しかったコパ・アメリカも、フィナーレが近づいてきた。
 
 今まで私は、北へ南へと忙しくゲームを追ってきたが、試合の合間を見つけてローカルサッカーも観に行った。今回は、日本人記者の目に映ったチリサッカーの原風景をお伝えしたい。
 
 チリと日本は似ている――。
 
「ぶらり旅コラム」のなかで、私はそう書いた。人々は親切で小柄、治安も良い。教育水準の高さは南米屈指のレベルのようだ。
 
 ただこれは、旅行者として街中の宿とスタジアムを行き来するなかでの印象。市街地からちょっと出ると、様相は変わってくる。
 
 例えば、チリ第2の都市・南部コンセプシオンは、街を横切る大通りを渡ると、途端に風景はすすけてきて、物乞いが出てくる。
 
道端に数人の老人がたむろして、道行く私を大声で呼び止めた。手のひらの小銭を見せて、「お前は払わなければならない」と言う。もちろん、そのまま通り過ぎた。
 
 こういう地域を歩いていると、物乞いや野犬とともに増えてくるのが「カンチャ」である。カンチャとはサッカー場のことだ。大都市の郊外や田舎町に足を延ばすと、至るところにカンチャがある。
 
 コンセプシオンでは、時間を見つけてカンチャ通いをした。カンチャがある地域には基本、観光客は行かない。何もないし、治安も良いとは言えないからだ。
 
「泥棒に気をつけろよ」
「この先には行くなよ。薬物中毒者がたくさんいるから」
 
 こういう忠告の声を、何度もかけられた。
 
 至るところに広がるカンチャでは、週末のたびに膨大な数のゲームが繰り広げられている。ひとつのカンチャで、午前から午後にかけて4試合くらい行なわれていた。
 
 これを「草サッカー」と呼ぶと失礼だろう。どのクラブも、会長、副会長、財務担当、秘書によって運営され、地域ごとにプレミアから2部、3部、4部というリーグ戦が組織されているからだ。
 
プレーするのは地域のサッカー協会に登録された選手たちで、メンバー表に署名をしてゲームに出ている。試合の内容も、ちゃんと協会に報告される。
 
 このようにチリ、また南米のサッカーは、しっかりと組織されたなかで運営されている。
 
 これは南米にも欧州にも当てはまるが、チリのサッカーは郊外の文化のなかで育まれている。
 
 野犬がうろつくカンチャは砂場のようなところも多く、たびたび怪我人が出ていた。判定を巡って揉めることも多く、そのたびに主審は毅然とレッドカードを提示した。
 
 ライン際には家族や友人たちが立って、叱咤激励したり、歌ったりしている。カンチャの周りにはチームカラーの横断幕が張り巡らされ、クラブ旗を振り回す人々もいた。このあたりは、観衆の数が少ないことを除けば、プロのゲームとほとんど変わらない。
 
 ゲームを見に来る人々は、選手の家族や友人たちだ。豊かではない地域のため、缶ビールやウォッカのボトルを手にした酔っ払いも多い。選手たちは地元の代表であり、負け続けて降格すると地元の面子を汚すことになる。このあたりもプロと変わらない。
 
 プロになって初めてプロ意識を学ぶのではなく、アマチュアの頃から、ピッチに立つことの意味を自然と彼らは学んでいる。

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