【女子W杯】女王らしさを見せつけたなでしこのビルドアップと采配術

2015年07月02日 西森彰

ロングボール主体の攻撃に冷静に対応。

身長差を突かれたスコット(8)と鮫島のマッチアップ。ただ、日本の最終ラインは粘り強く守り、PKでの1失点のみに抑えた。(C) Getty Images

 準決勝のイングランド戦は、決勝トーナメントのなかで最も厳しいゲームとなった。過去に4度対戦して2分2敗と、日本がいまだ勝利したことのない相手はこれまでと同様、徹底してロングボールを放り込んできた。

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 とりわけ右サイドに位置した8番のジル・スコット(181センチ)と鮫島彩(163センチ)のミスマッチを突かれた。約20センチも違う身長差に合わせて、ハイボールを放り込まれ、裏にこぼれればすぐに決定機を生み出された。
 
 そして弾き返してもCFのジョディ・テイラーにすぐ拾われる。エンターテインメント性のかけらもないサッカーだが、日本に対して効果はてき面だった。
 
「たぶん、そうやってくるんだろうなとは思っていたけれど、イングランドは毎回、それを徹底できる。そこは凄い」とCBの岩清水梓。
 
 ロングボールで裏を取られないよう、日本はいつもより低い位置に最終ラインを設定した。すると中盤から前がやや間延びし、FWが孤立。ここまではイングランド陣営の作戦どおりだった。
 
 4年前のドイツ大会では、この状態で不用意に相手陣内へボールを蹴り込み、奪われてカウンターに沈んだ(グループリーグ第3戦で対戦し0-2の敗戦)。
 
 ただ、4年の時を経て、なでしこは成長していた。焦って前がかりになることなく、ボールをキープし相手に隙が生まれる時を待った。自陣でパスを回すうえでカギになったのが、2枚のCBの距離だ。
 
 ふたりが外に開けば必然的に、その外にいる両SBが高い位置を取る。ただ、この形はボールロストのリスクも大きい。海堀あゆみのファインセーブに救われた64分のピンチはこのマイナス面を突かれ生まれた。
 
 ただでさえ、今大会採用されている人工芝は、天然芝に比べてボールが蹴りにくく、コントロールも難しい。それでも「(後ろでつなぐ)リスクは承知しているが、向こうは1トップだし、ボールを前に運ぶのもそう難しくない。ビルドアップは海堀も上手いし、そこは日本のストロングポイント」(岩清水)と、味方のペナルティエリア付近でも、勇気を持ってパスをつないだ。
 
 31分のPKは、最終ラインのパス交換に加わった阪口夢穂から、右SB有吉佐織へのロングフィードが通って得たもの。「あの場面はイングランドが完全にボールウォッチャーになって、自分がフリーになっているのが分かったし、阪口からボールが出てくるとも思っていた」(有吉)。相手のロングボール攻撃の圧力に耐えながら、イングランドの隙を突いた見事な先制点だった。
 

次ページボールポゼッションでスタミナ面でも上回る。

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