原点は川崎アカデミー時代…三笘薫が持つ“世界基準”。メッシ、イニエスタらとも共通の強みとは?

2021年10月25日 加部 究

セラン戦のハットトリック達成時、左足を使ったのは“二回だけ”が持つ意味

早くもブレイクの予感を漂わせる三笘。セラン戦では圧巻のハットトリックを達成した。(C) Getty Images

 三笘薫を支える2本の柱は、スプリントを軸とするアスリート能力と利き足のテクニックの精度だ。前者は誰もが知る通りだが、後者についてもここまで到達できている日本人選手は意外と少ない。

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 原点は川崎フロンターレ・アカデミー時代の髙崎康嗣氏の指導にある。髙崎氏は三笘、三好康児、板倉滉らの世代を連れて、小学生年代の世界大会に出場した。そこで感じたのは、世界基準と比べた時の違いだった。日本は幼少時から「右も左も」と教えられ「不得意な逆足もしっかり」と強調されがちだが、世界のトップレベルは総じて少年から大人まで「利き足の前に1か所自分の最大値を表現できるボールの置きどころ」を持っていた。

 時間とスペースがどんどん制限されつつある現代サッカーで、多くのトッププレーヤーたちは究極の舞台ほど利き足のタッチにこだわっている。そこに気付いてから髙崎氏は「ごめん、もっと上手くなる近道があった」と少年たちに潔く謝り、利き足中心でプレーする指導に切り替えた。選手たちは「身体に軸が出来て、日々あれ?と思うほど変わっていった」という。こうして1学年下の田中碧らも続き、川崎の育成黄金期が到来した。

 実は一見左右の足を器用に扱っているような印象を与えがちなアンドレス・イニエスタでも、9割以上は右足1本でプレーしている。利き足使用の比率はリオネル・メッシや往年のシャビらも同じで、ネイマールも欧州に進出してから左足のタッチ数が減ったそうである。髙崎氏は小学生時代には久保建英も指導したことがあるが、「本人は"右足も練習しなきゃ"と言っていたけれど、しっかりと左足のポイントを持っていた」という。

 三笘も大半のボールタッチが利き足だ。例えばベルギーリーグのセラン戦ではハットトリックを達成したが、3つのゴールを決めるまでのプロセスで左足のタッチは二度しかない。最初のゴールは左足で止めて右足でファーサイドに流し込み、2点目は右足アウトで止めて、そのまま右インサイドでゴール。そして3点目は左サイドから2人のDFをかわす長いドリブルを見せたが、1人目を抜いてからシュートを打つまで8回のタッチの間に左で運んだのは1度だけだった。また昨年末の横浜F・マリノス戦で見せた70mのドリブル突破も、自陣ゴール前で登里享平のクリアボールを胸で止めてからチアゴ・マルチンスの股抜きを含めてすべて右足で運び、13タッチ目で小林悠にラストパスを送っている。

 まさに三笘は「利き足を武器に出来なければ世界で通用しない」という髙崎理論を体現しているような選手だ。また同じ姿勢からアウトにもインにも仕掛けられる自在な右足は、ドリブル突破だけではなく意表を突くスルーパスを繰り出すことも出来る。常に上体を垂直に立てた三笘には、そういう視野が確保されている。

【動画】三笘薫が達成した衝撃のハットトリック!左足のタッチは…

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