【指揮官コラム】チェンマイFC監督 三浦泰年の『情熱地泰』|我が家の教えとタイ人の「スマイル」

2015年06月30日 サッカーダイジェストWeb編集部

簡単に笑ってはいけない環境で育てられてきた自分。

タイに来てから現地の人々の笑顔が好きになったという三浦監督。厳しいトレーニングの合間にも時折笑顔が見られる。(C) SOCCER DIGEST

 少し古い話になるが、僕の父は自分の孫が(つまり僕の子どもが)男の子だと分かった時、サッカーを目指すことになるであろうと思ったのか、また初孫でもあったからなのか、本当に嬉しそうだった。当時、身体を悪くしていた父にとっては、分身のようにも感じていたのだろうか。
 
 1歳にもならないくらいの子どもの魅力とはなにか? それはやはり「スマイル」、屈託のない笑顔だ。しかし、父はその笑顔に「男が簡単に笑うな!」と冗談半分で言っていた。こうやって文章にすると、とんでもないお祖父ちゃんに思えるかもしれないが、そのニュアンスは分かってもらえるだろうか。
 
 僕の家族はサッカーファミリーだ。僕とカズがサッカーの道で育ててもらえたからこそ、家族がひとつになっている。少し大げさだが、毎日を戦いのなかで生きてきた家族のなかに、新しい生命が男としてやって来た。そんな意味でも、この「笑うな!」があるのである。
 
 僕も長くスポーツの世界で生きてきたが、やはり簡単に笑ってはいけないと思っている。そうした『哲学』のようなモノがある。
 
 今日の勝利で笑ってしまったら、明日の試合で笑われるぞ――。勝負の世界で生きていれば、勝つこともあれば負けることだってある。今日勝っても明日は負けるかもしれない。ひとつの勝利で浮かれていたら、いつか泣きを見る。だから人前では簡単に笑うな……、ということなのだ。
 
 性格が暗いかもしれないけど、笑うなら家に帰って部屋のドアを開けて入った瞬間、大声で喜べ、満面の笑みはそれから許可する。そんなふうに思っている。嫌な性格、イヤな監督だ(笑)。
 
 そして、選手にもスタッフにも、笑顔よりも真剣な顔を求める。こっちで言えば『シリアス』だ。チェンマイFCに来て最初に感じたのは、この『真剣さ』というものが足りない。スイッチが切り替わらないのだ。笑顔も、真剣なシリアスな顔があるからこそ、何倍もの価値があり、喜びの表現に変えられるのである。
 
 ところが、僕がチェンマイに来て一番気に入っているのは、どういうわけかタイ人の「笑顔」、「スマイル」なのだ。
 

次ページ1回でも多くの笑顔を見るために努力していきたい。

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