メッシの退団やバルサの経営危機さえも“利用する”したたかさ…ピケは計算高い「カメレオン」【現地発】

2021年09月24日 エル・パイス紙

対照的にジョルディは観客からブーイングを浴びた

選手としてだけでなく、実業家としての顔も持つピケ。(C)Getty Images

 ジェラール・ピケはすぐさま行動に移した。

 リオネル・メッシのパリSGへの入団交渉が合意に達したその数時間後には、自身がオーナーを務める投資グループ『コスモス』がリーグ・アンのテレビ放映権を取得した。メッシの加入でリーグ・アンのコンテンツの価値が高まったことはハーバード大学の博士課程を卒業していなくても理解できる。しかしそのフットワークの良さが際立った。

 ピケと「ピケ・ブランド」をもはや切っても切れない関係にある。サッカー選手にありがちな貯金にいそしんだり、不動産業に乗り出したり、怪しげなフュージョン料理のレストランを立ち上げたりといった類のものではない。ピケが将来の壮大なプランを持ち、その達成のために綿密に戦略を策定し実行しているのは明らかだ。

 ピケはバルセロナ、そしてスペイン代表の一員としてありとあらゆるタイトルを手に入れた。裕福な家庭に生まれ、世界的なアーティスト(シャキーラ)と結婚した。特筆に値するのは、そうした自らに与えられた環境はもちろん、クラブの経営危機やエースの電撃退団というバルサにとってマイナスの事象でさえも骨の髄まで利用してしまう逞しさだ。

 今シーズンの開幕戦(相手はレアル・ソシエダ)で、ピケはカンプ・ノウの観客から盛大な拍手を浴びた。試合前日に給与カットを受け入れたことが大々的に報じられ、ジョアン・ラポルタ会長からも賞賛を受けた。譲歩したようでいて、元を取ったのである。一部で伝えられているように将来的にバルサの会長のポストを狙っているのなら、安い投資であろう。

【動画】ピケからファンへ愛を注入!開幕戦ゴール後のパフォーマンス
 対照的にその同じ試合で、ジョルディ・アルバは観客からブーイングを浴びた。契約という自ら勝ち取った正当な権利を主張し、しかもクラブと給与カットの交渉を行っていた最中だったが、それが理解されることはなかった。交渉に合意したのは試合の数日後だった。タイミングを逸したことで、二重の痛手を被ったのだ。

 メッシの件にしても同様だ。エースの退団の報にバルセロナの街全体が悲しみと衝撃に包まれる中、ピケは商機を見出した。パリSGにはメッシに加え、キリアン・エムバペという旬の選手も所属している。

 こういったモルボ(因縁)、好奇心、ポレミカ(論争)を煽る物事はピケの大好物だ。どんな局面においても適切に対処し、自ブランドのイメージアップに繋げてしまう。

 誰もが羨むキャリアを歩み、バルセロニスモのルーツを深く体現し、ソーシャルメディアの若々しい風景の中を軽やかに駆け抜ける時代の寵児でもある。遊び心に溢れ、時に挑発的に時に慎重になり、政治的センスにも長ける。ピケは目的や場面に応じて顔を変える計算高いカメレオンなのだ。

文●サンティアゴ・セグロラ(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙のコラム・記事・インタビューを翻訳配信しています。

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