日本はなぜオマーンに金星を献上したのか。ジャイアントキリングの「三つの条件」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年09月07日 小宮良之

侮りはしていなかったにしても…

オマーンに痛恨の金星を献上した日本。久保ら途中出場の選手も流れを変えられなかった。写真:金子拓弥 (サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 サッカーはジャイアントキリング(大番狂わせ)が起こりやすいスポーツとして知られるが、それには最低でも三つの条件がある。
 
 一つは有力なチームのコンディションが、いつもよりも良くない。また、メンタル的に慢心と言わないまでも、どこかで相手を侮っていること。そして格下と思われるチームの選手が、体力と気力をどちらも充実させていることだ。

 カタール・ワールドカップ・アジア最終予選、日本が本拠地でオマーンに0-1と金星を献上した試合は、まさに三つの条件が揃っていたと言えるだろう。

 日本の選手たちは、コンディションが100%には程遠かった。まず、東京五輪を3位決定戦まで戦った選手たちは、精神的にも、体力的にもひどく消耗していた。久保建英、堂安律などは先発から外れたし、酒井宏樹は試合後に代表から離れ、休養を取ることを発表したほどだ。

 また、日本陣営はオマーンを軽んじ、侮ったりはしていなかったにしても、格下とは見ていた。その空気は、試合後の言葉の端々からも伝わった。どう勝つか、が念頭にあって、よしんば引き分けることはあっても、負けることなど考えていなかったはずだ。
 
 結果、ふわりとゲームに入ってしまい、それが最後まで修正できないままだった。いつものようにボールがつながらず、プレースピードが上がらず、それどころかハイプレスに失うこともしばしば。判断が遅れ、アイデアも乏しかった。
 
 その混乱を引き起こしたのが、オマーンである。

【動画】終了間際にまさかの…日本を地獄に突き落としたオマーンの劇的決勝弾
 オマーンはセルビアで1か月の合宿を行い、万全の準備をしてきたという。コンディションの良さは明らかだった。戦術的にも鍛えられていた。最終ラインのコントロールは計算されたもので、ライン間も緊密。プレッシングとリトリートを併用。日本のプレーを研究し、チャレンジ&カバーを怠っていなかった。攻撃は高さを生かしながら、ショートカウンターも放ち、セットプレーのバリエーションも豊富だった。

「自分たちはパスを回すスタイルだが、微調整をしていた」

 オマーンの指揮官であるブランコ・イバンコビッチは語っているが、ボールを持てる選手を各所に配置し、つなぎのオートマチズムもあった。

「公式戦で日本のようなチームに勝つことができて誇りに思う。これは歴史的な勝利。選手には、『失うものはない。何かを成し遂げるんだ』と言い聞かせて戦いに挑んだ」

 まさに、捨て身の構えか。それによって、実力を覆した。

 勝利の高揚感で、オマーンの選手たちは自信を身につけるだろう。それは技術の確かさとなる。ジャイアントキリングは、どんな特訓よりも彼らに本物の力を与えるはずだ。

 日本は手ごわい敵を作った。しかし、それを叩き潰すことで、競争力は上がる。日本も、世界の強豪にジャイアントキリングを成功させ、強くなってきたのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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