「願うことしかできなかった…」絶好調・堂安律に弱音を吐かせた大会前の異変。「もうこういう思いはしたくない」【東京五輪】

2021年08月09日 飯尾篤史

「サッカーはラッキーなことに、次の舞台がある」

東京五輪ではPKによる1点のみで終わった堂安。A代表でのリベンジに闘志を燃やしている。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 初のオリンピックは思い描いたものにはならなかった。

 ニュージーランドとの準々決勝でも、スペインとの準決勝でもゴールを奪えず、苦しむチームを救えないまま、背番号10は途中交代でピッチを後にした。

 もともと今大会を迎えるうえで最もコンディションが良かったのが、堂安律だった。

 ビーレフェルトでの好調さを代表チームに持ち込み、6月のガーナ戦、ジャマイカA
代表戦、7月のホンジュラス戦、スペイン戦と親善試合で4試合連続5ゴールをマークする。

 スペイン戦後には「ゴールは選手にとって一番自信になるもの。でも、僕の理想の10番像にはまだ遠い。期間中に少しでも理想像に近付きたい」と意気込んでいた。

 異変が起きたのは、南アフリカとの初戦を3日後に控えた7月19日だった。かかとの痛みを訴え、全体練習に参加しなかったのだ。

 別メニューとなったのはこの時だけで、メディアに対しては「問題ない」「大丈夫です」と繰り返したが、大会が開幕してもなかなか調子が上がって来ない。

 かかとに痛みが残るのか、大会前にコンディションのピークが来てしまったのか、ゴールが奪えないことで焦りが生じているのか……。
 
 いずれにしても、プレーの幅が狭まり、強引な仕掛けが多くなったのは間違いない。

 準々決勝前日には「コンディション、ボール感覚、チームメイトとのコンビネーションが良くなってきた。そろそろ点を取れるんじゃないかと思っています」と自信を覗かせたものの、ニュージーランド戦でも不発に終わり、試合後に「次はディフェンス陣を助けられるようにしたい」と誓った。

 しかし、身体は限界に達していた。延長戦の前に退いたスペイン戦後に「願うことしかできなかった。身体も本当にボロボロだったので。代わって正解だなとベンチで思っていたくらいだった」と認めた堂安は、メキシコ戦後にも「0-2、0-3となってから、足一歩動かすのも苦しかったですけど、『自分が動かないとダメだ』と言い聞かせながら頑張ったつもり」と語るのだ。

 強気の発言が多く、弱音をめったに吐かない堂安だからこそ、これらの言葉はいかに極限状態だったかを感じさせた。

 もっとも堂安は、悔しさを振り払うように前を見つめた。

「この1年、2年、自分のどこに隙や甘さがあったのか、もう一回考えないと。ワールドカップも控えていますし。サッカーはラッキーなことに、次の舞台があるので、もうこういう思いはしたくない」

 その言葉は、もっと強くなって戻ってきます――そんな宣言に聞こえた。

取材・文●飯尾篤史(スポーツライター)

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