「9年前と同じ悔しさを…」酒井宏樹の東京五輪。オーバーエイジの責任が、涙となってこぼれ落ちた

2021年08月09日 浅田真樹

9年前の借りを返す準備はできているはずだった

自身二度目となったオリンピックの舞台。しかし、メダル獲得の夢は叶わなかった。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 自国開催のオリンピックという晴れ舞台で、自身5シーズンを過ごしたフランスと同組で戦うことが決まったときは、少しばかり驚いた。

「縁を感じる。個人的にもすごく楽しみにしている」
 笑顔でそう話していた酒井宏樹にとって、元チームメイトもいるフランスとの対戦は、グループリーグのハイライトと言っていいものだった。

 まずは、貴重な追加点となる2点目のゴール。本人は「トラップしちゃうと、僕の技術では……。ワンタッチじゃないと、逆に外していたと思う」と苦笑したが、DFながらにワンタッチボレーで仕留めた得点は、酒井らしい果敢な攻撃参加が生んだものだった。
 
 一方、そのフランス戦では、大会通算2枚目となるイエローカードも受けた。準々決勝は出場停止。それでも「もちろん責任は感じているが、決して判断ミスではない」と言い切り、日常的に世界の猛者たちと対峙してきたプライドをにじませた。

 PK決着となったニュージーランド戦は、スタンドから「ただただ勝利を願い、みんなを信じて見ていた」。と同時に、次は自分がやらなければ――。そんな思いも強くした。

「(準決勝で)勝てば、今までにない記録になるし、記憶にも残ると思う。今まで行ったことのないところへ、みんなで一緒に行きたい」

 ロンドン・オリンピックで4位の悔しさを知る右サイドバックは「ここからが大事」だと、自らに言い聞かせるように口にしていた。9年前の借りを返す準備はできているはずだった。

 しかし、再び準決勝の壁に阻まれた。史上初の決勝進出はならなかった。

 大会前は「(オーバーエイジとして加わる)プレッシャーはもちろんあるが、ピッチに入ってしまえば、11人のうちのひとり。ただ自分がやるべきことに集中してやるだけ」。酒井はそんなことを口にしていた。だからこそ、スペインに敗れた後は、「任務を果たせなかった」と表情をこわばらせた。

「9年前と同じ悔しさをこの世代に与えてしまった」
 オーバーエイジの責任が、涙となってこぼれ落ちた。

取材・文●浅田真樹(スポーツライター)

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