完全本気モードのスペイン相手に鮮明になった現在地。世界トップクラスと日本の実力差とは?【東京五輪】

2021年08月04日 加部 究

【識者コラム】偶発的な勝利は、ブームを巻き起こした可能性もあるが…

120分の死闘も内容的には開きがあったことは否めない。日本の現在地を知るうえで意義ある一戦となった。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 これ以上日本に出来ることはなかった。

 最大の収穫は、スペインが五輪にこれだけのメンバーを揃えて参加してきたおかげで、日本の現在地を再確認出来たことである。

  一発勝負なので、PK戦に持ち込めば勝つチャンスはあったかもしれない。もしかするとその偶発的な勝利は、ブームを巻き起こした可能性もある。メダリストに憧れ、サッカー少年が増えれば、この上ない普及強化策となったのかもしれない。
 
 しかしあまりに幸運の度合いが濃過ぎる勝利は、本当の進化には繋がらない。過去に日本は、五輪で何度かの奇跡を起こして来た。その度にメディアは大騒ぎをして、五輪が来る度に語り継がれるわけだが、奇跡がそのまま実力として定着したケースはなかった。

 両チームを比較すれば、スペインが圧倒的に不利な条件下にあったことは言うまでもない。6人の選手たちはユーロを準決勝まで戦い抜き、その時点でモチベーションもコンディションも萎み切っていた。希望通りのオーバーエイジ(OA)を招集し、世界に例を見ない高温多湿の環境下で万全の準備をしてきた日本とは比べるべくもなかった。

 サッカーの世界では、こんな時に豪華メンバーがアダとなることも少なくない。もしスペインがグループリーグで躓いていたら、そのまま帰国する羽目になっていたかもしれない。実際準々決勝のコートジボワール戦は、ほぼ相手にベスト4の座を明け渡していた。

 だがここまで勝ち上がって来てしまうと話は別だ。金メダルがちらつき始めたスペインには、完全に本気モードのスイッチが入ってしまった。その象徴がオヤルサバルだった。一緒にユーロを戦ったダニ・オルモが58分でお役御免になったのとは対照的に、延長戦まで信じ難いほど粘り強く走り続け、最後はアセンシオの決勝ゴールを演出した。後半相馬勇紀が交代出場して来ると、1度はプレスバックしてかわされながら、再び圧力をかけてカウンターの起点になる。延長戦に入っても、前田大然の快足ドリブルを諦めることなく70メートル近くも追走した。9枚のイエローも、そこまでして勝とうとする本気の証とも言える。

 ただしこうした魂の奮闘を踏まえた上で、スペインはプレーの質で圧倒的な違いを見せつけた。時間が経過するほど日本を自陣深くに釘付けにしてプレッシャーをかけ続け、やがて日本はリトリートしかできなくなり、カウンターに出ようとしても誰もボールホルダーを追い越して行けなくなった。メンバー全員に自信を持つスペインは、120分間の中でもターンオーバーを試み、決着をつけたのがエースのペドリに代わったアセンシオである。スペインのポゼッションは常に急所を突き、日本の倍のシュートを打ち6倍も枠内に飛ばした。ゴールを生むまでに決定機も5~6度は演出しているので、どこから見ても必然の勝利だった。

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