「どうあがいても、長谷部誠にはなれない」。それでも吉田麻也は素晴らしいキャプテンになった【東京五輪】

2021年07月26日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

吉田の佇まいをひと言で表現するなら…

抜群のキャプテンシーでチームを引っ張る吉田。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 威風堂々──。東京五輪での吉田麻也の佇まいをひと言で表現するなら、こうなるだろう。最終ラインでどっしりと構えて味方に落ち着きをもたらす彼は、言うまでもなく五輪代表の絶対的なリーダーだ。練習後や試合後のコメントにも冷静さと威厳、さらにユーモアもあり、選手という以上に人間としての品格を感じさせる。

 数年前に比べると、なんとなく雰囲気が変わった印象があるが、そのターニングポイントは個人的に2018年のロシア・ワールドカップだと考えている。決勝トーナメント1回戦でベルギーに敗れた翌日のミックスゾーンでの彼と記者団とのやりとりは鮮明に記憶している。
 
 そのミックスゾーンでロシア・ワールドカップを最後に代表引退する長谷部誠について訊かれた吉田は、15秒間ほど沈黙したあと、「本当に素晴らしいキャプテンでした」と発した。そして天井を見上げるような恰好で涙をこらえると、「はああ……」と嗚咽のようなものを吐き出しつつ目からは涙がこぼれた。そして、およそ1分の静寂の時を経て、再び口を開く。

「7年半、彼と一緒に……やってきましたけど、あれだけチームのことを考えてプレーできる選手は少ないし……。ずっと彼を……、彼の姿勢を見て学ぶことがたくさんあった。この大会が終われば、ハセさん(長谷部)だけじゃなくて、今まで何年もやってきた選手たちとやれなくなるという覚悟はあったので、分かってはいたことですけど……、本当に公私ともに長く一緒にいる時間があって皆と仲良くさせてもらったので、寂しいです」

 ここまで話した吉田は「ちょっと待って」と涙を拭いたあと、次のように決意を述べた。

「ピッチの内外での役割は理解しているつもりです。センターバックとしてチームを引っ張っていかないといけないのも理解している。どうあがいても、長谷部誠にはなれないので、自分のスタイルで代表チームを引っ張っていきたい。なかなかああいう選手のあとはやりにくいと思うので、誰か(キャプテンを)やってくれないかな」
 
 最後はそう記者団の笑いを誘った吉田は自らの役割をしっかりと把握していた。そして──。今やA代表、そして五輪代表でも抜群のリーダーシップを発揮して誰もが認める"素晴らしいキャプテン"になっている。人としての内面がさらに磨かれた吉田麻也は、正真正銘のプロフットボーラーだ。

文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集長)

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