マドリーに攻めかかると罠にはまる…相手に応じて必要な戦略とは?【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年07月11日 小宮良之

的確に対策を講じても、“弱者”が波乱を起こせる可能性は…

ジダンのマドリーは、CLでは勝負強さを発揮した一方、国内では取りこぼしが少なくなかった。(C)Getty Images

 サッカーというスポーツでは、相手によって勝利の戦略は変わる。例えばボールを持つことに優位性があるチームに、ボールを持たせることは命取りになる。相手に流れを与えてはならない。

 例えば、ジネディーヌ・ジダン監督が率いたレアル・マドリーを打ち破るにはどのように戦うべきか。

 ジダンのマドリーはリアクション戦術が基本で、相手にボールを持たれた方がむしろ力を発揮した。相手の攻撃を受け止めるだけの堅い守備を誇り、引き込んでからのカウンターが特徴。滅多打ちにされようが、ガードを崩さず、一発のパンチで仕留められる。

 チャンピオンズ・リーグでは、マドリーを相手にボールをつないで攻めかかるチームが多くあった。それは鼻息を荒げ、罠に食いついているに近い。昨シーズンのラウンド・オブ16ではアタランタが果敢に攻撃しようとして絡め取られ、準々決勝の第1レグでもリバプールが攻撃的な陣形で挑むも、あえなく1-3と敗れた。

 一方、マドリーはグループステージで守備を固めてきたシャフタール・ドネツクに2敗している。国内リーグでも、専守防衛のカディスやアラベスなど格下に金星を献上。スペイン国王杯では2部B(実質3部)のアルコジャーノに敗退しているのだ。

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 しかし策を講じても、覆されることはある。

 昨シーズンのヨーロッパリーグ、準々決勝ではスペインの伏兵グラナダが強豪マンチェスター・ユナイテッドに万全の策で挑んでいる。グラナダは相手の戦い方を研究し、攻撃の中心であるポルトガル代表MFブルーノ・フェルナンデスを無力化。中盤で挟み込み、ほとんど何もさせていない。選手たちは勇敢に戦い、セットプレーやカウンターからチャンスを作っていた。

 しかし、マンチェスター・Uは想像以上に"戦い巧者"だった。相手のペースの時にはじっくりと耐え、一瞬で裏にパスを通し、ラッシュフォードがゴールを撃ち抜いた。B・フェルナンデスは封じられても、一発をものにする決定力を備えていた。その後はのらりくらりと再び攻撃を受け止め、勢いが弱まると攻め返し、ダニエル・ジェームズはサイドからの仕掛けで反撃ムードを断ち切った。そして終盤にPKを得るとブルーノ・フェルナンデスが決め、2-0と完勝した。

「悪い結果だ。スコアは試合内容を反映していない。少なくとも、後半は我々の得点機会があったはずで…」

 グラナダのディエゴ・マルティネス監督は無念さを込めて語っている。しかし、敗北という事実は動かない。的確に対策を講じたとしても、相手に油断や隙がない限り、"弱者"が波乱を起こせる可能性は低いのだ。

 ただ、戦略なしでは勝算が乏しいのも真理である。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
 
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