「僕が痛いほうがまだいいや」日本代表GK権田修一は、いかに至近距離からのシュートを克服したのか?

2021年06月07日 前島芳雄

清水が「S-PULSE GOALKEEPER MEETING」を開催

権田が子どもやGKコーチからの様々な質問にオンラインで答えた。写真:塚本凜平(サッカーダイジェスト写真部)

 清水エスパルス育成部は5月、新たな取り組みとして現役日本代表GKの権田修一をゲストティーチャーとし、オンライン講座「S-PULSE GOALKEEPER MEETING」を開催した。

 清水のアカデミー(U-10~U-18)とスクールに所属するGK、そして静岡県各地域トレセンのGKコーチからのさまざまな質問に権田が答えていくイベント。「これからどういうGKを目指していくのか?」「海外に行って驚いたことは?」「練習で意識していることは?」といった質問に対し、日本のGK全体のレベルアップに強い関心を持つ権田は、小学生にも分かりやすい言葉で丁寧に答えた。

 ここでは、ひとつの質問と回答にフォーカスし、中学時代の権田が大きく成長したきっかけに迫っていく。質問は中学年代を指導するコーチからの「至近距離のシュートに対する恐怖心をいつ頃克服できたんですか?」。それに対して権田は次のように答えた。

「近距離のシュートというのはGKの醍醐味であり、いちばん肝っ玉が大事になるところだと思うんですが、僕は正直に言うと中学1年生の頃はダメでした。恐かったです。でも、中2の時に3年生の試合に起用してもらったのに、(近距離のシュートで)失点して試合に負け、先輩たちが引退してしまいました。
 
 僕は(シュートを)避けたわけではないけど、練習でコーチに教わっていたやり方とは違う対応をしたんですね。その頃は、身体を横にしてお腹から行こうと……、昔(川口)能活さんがよくやられていた形でアプローチしようと教えられていました。でも僕は、今多い形というか、身体を起こしてブロックに行って、足もとを抜かれちゃったんです。あとから当時のGKコーチに聞いたら『お前はビビっていたから、あえてその練習をやらせていたんだ』と言われたんですけど、身体を横にするプレーを選択していたらやられなかったんです。

 だから、練習でコーチに言われていたことをなぜできなかったんだろうと。その試合で先輩たちが引退してすごく泣いていて、僕も本当に悲しくて……。その時に『僕が痛いほうがまだいいや』と思ったんです。失点してチームが負けるほうが辛いなと」

 その試合以降、権田はボールに対する恐怖心がなくなり、「逆に『危ないからあまり行き過ぎるな』と言われるようになりました。今も顔にけっこう傷跡が残っていますし、顎も何回か外れているんですよ。妻には本当に気をつけてと言われているんですけど、それで失点を防げるなら安いもんだぐらいに思ってます」と気丈に語った。身体の痛みよりも心の痛みのほうが辛い――。それを思い知ったことが、中学2年生の権田少年にとって大きな転機となったのだ。
 

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