【柏】献身のFWから点を取るFWへ――工藤壮人がACL山東戦で見せたストライカーの資質

2015年04月09日 鈴木潤

守備のタスクを重んじた昨季は“前へ出ていけない”ストレスを感じながらプレー。

アウェーで3位の山東から勝点1を獲得。工藤はディフェンスラインの裏に抜け出す“らしい”動きで2点目のゴールを決めた。(C) Getty Images

 勝てばグループリーグ2試合を残して決勝トーナメント進出が決まる。しかし、3位につける山東魯能にとっては"背水の陣"。しかも場所は独特な雰囲気が漂う中国でのアウェーゲームだ。互いの気迫が正面からぶつかり合った一戦は、稀に見る撃ち合いとなり、4-4のスコアで勝点1を分け合う結果になった。
 
 結局、決勝トーナメント進出は次節に持ち越しになったが、攻撃面についてはいくつかのプラス材料が見られた。なかでも工藤壮人がJリーグ開幕戦以来のゴールを決めたのは明るいニュースで、その形も工藤がもっとも得意とする絶妙な裏への抜け出しからの"らしい"一撃だった。
 
 山東は、3月17日の対戦時から一転、守備をマンツーマンからゾーンに変えてきていた。そのため試合序盤は、攻撃へ転じる柏はスペースを見出せず、先制点を許す展開になった。
 
 だが、「相手がそこまで食い付いてこないなら」と、工藤は運動量と動きの幅を増やし、味方とポジションチェンジを繰り返して山東の守備陣を撹乱していく。
 
 工藤が挙げた柏の2点目を振り返ると、スタートポジションを右サイドとする工藤が左サイドまで流れて起点を作り、そこで相手のマーカーを引き出した後にディフェンスラインの背後へと飛び出し、レアンドロからのパスをボレーで決めている。
 
「スペースを作りあって生まれたゴール。冷静に流し込めた」
工藤自身が、そう分析するゴールだった。
 
 3-4で迎えた73分にも、裏への抜け出しから工藤は決定機を迎える。これはゴールライン上で山東のDFにクリアされてしまうが、得意の形から決定機を作り出せていることはプラスに捉えていい。
 
 なぜなら、昨年は守備のタスクを与えられ、そこを重んじるあまり"前へ出ていけない"ストレスを抱えながらプレーを続けていたからだ。そのストレスを抱えてもチームを最優先した工藤は、自分のゴール数激減と引き換えに、献身的に守備をこなしていくつもの勝利に貢献した。
 
 だが当然、昨季のリーグ戦7ゴールという数字に満足できるわけがない。シーズン終了後には「もう少し、自分のプレーを出しても良かったのかな」と、思わず本音を漏らしたこともあった。
 
 もちろん、今季も献身的に守備をこなしている。そのなかで、山東戦でも見せたように、「裏へ抜け出してゴールを奪う」というストライカーとしての資質を随所に見せつけられた点は、昨年の試練を乗り越えた工藤自身が導き出した答である。守備でチームの勝利に貢献するFWではなく、ゴールを決めてチームに勝利をもたらす。それが"エース"の姿だ。
 
 決勝トーナメント進出は決められなかったが、それでも勝点1を上積みした柏がグループリーグ突破へ向けて前進したのは間違いない。
 
「この勝点1で、決勝トーナメント進出へ向けて有利な立場になったのは間違いない。あと2試合、早い段階で決勝トーナメント進出を決めたい」
 試合後、工藤はそう力強く答えた。

取材・文:鈴木 潤
 
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