連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】敵を崩す大胆不敵なドリブラー 浦和・関根はだから価値がある

2015年04月06日 熊崎敬

積極果敢な仕掛けが残り5分で実を結ぶ。

自慢のドリブルで松本の守備をぐらつかせ、決勝ゴールを導いた関根。この大胆不敵なドリブラーこそ、浦和覇権奪回のカギを握る存在だろう。 (C) SOCCER DIGEST

 森脇の左足ミドルが決勝点となった松本との一戦(J1・4節)、浦和に勝利をもたらしたのは右サイドのドリブラー、関根の積極果敢な仕掛けだった。
 
 85分、それまで何度も右サイドをえぐっていた関根の仕掛けに、松本はふたりが揺さぶられ、森脇への警戒が甘くなってしまった。
 
 フリーの森脇を抑えようと、松本は慌てて中盤の前田が駆けつけたが、間合いをわずかに空けてしまった。森脇の左足とゴールを結ぶコースを、完全に遮断することができなかった。
 これは微妙なずれであり、ミスとはいえないかもしれない。だが前田にとっては、悔やんでも悔やみきれない瞬間となっただろう。
 
 中に仕掛けて、空いた外から仕留める。
 それはバスケットボールの3ポイントシュートを思わせる、見事なゴールだった。今後、浦和と対戦するチームは、関根の突破と森脇の左足への対策に頭を悩ませることになるだろう。
 
 もっとも浦和と松本の戦力差を考えれば2、3点取って、あっさりと押し切らなければならないゲームだった。シュート数23対5。浦和は前半から一方的に攻めていたが、危うく引き分けに持ち込まれそうになった。
 
 攻めても攻めても決まらない浦和のゲームを見て、思い出した試合がある。ブラジル・ワールドカップの日本対ギリシャ戦だ。
 
 日本対ギリシャと浦和対松本。日本と浦和はどちらも圧倒的にボールを支配しながら、最後のところで攻めあぐねた。
 引いた敵を崩すことは、決して簡単ではない。だが日本は特に苦手としている。敵陣を包囲しているのに、堂々巡りになってしまい「王」を詰むことができないのだ。なぜそうなるのか。
 
 その最大の要因は、ドリブルが少ないことではないだろうか。
 ナタウの日本も埼スタの浦和も多くの場合、最後はクロスから仕留めようとした。だが、味方に合わなかったり、敵に身体をぶつけられてシュートを決められなかった。
 
 パスに頼ると、敵の守りは簡単に外せない。それは敵の急所にボールを送っても、マークは混乱しないからだ。敵はボールを弾き返すことに専念すればいい。
 
 だが、パスではなくドリブルを繰り出すと、状況はまったく変わる。中を固めていた敵は、自らのマークを捨てて突っ込んでくるドリブラーを抑えにいかなくてはならない。こうなるとゴール前のすべてのマッチアップがずれていき、どこに敵がいるのか見失って混乱する羽目になる。これが崩れるということだ。
 
 ナタウの日本には、ギリシャの急所に果敢に潜り込んでいくドリブラーがいなかった。右サイドでは内田が奮闘していたが、敵のマークをひとりずつ引きずり出すような、本丸に迫っていくようなプレーはできなかった。
 埼スタの浦和には、それができる男がいた。関根は90分を通じて松本の本丸を突き続け、その果敢な姿勢が残り5分で実を結んだ。
 
 日本がボールを支配しながら勝利を逃してしまうのは、いちばん厳しいところで仕掛けられる選手がいないからだ。
 1対1での勝負は当たり前、ふたりの敵に堂々と仕掛けていく男が出てこなくてはならない。サッカーが子どもの遊びからコーチング主導になったいま、そんな大胆不敵な勝負師はなかなか育たないだろう。
 
 だからこそ、関根は貴重だ。この19歳が浦和覇権奪還のカギを握っているといっても、決して過言ではない。
 
取材・文:熊崎敬
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