【川崎】直接FKを沈めた田中碧。それでも“フリーキッカー”のイメージを否定するワケ

2020年12月29日 江藤高志

天皇杯準決勝で勝利に貢献

天皇杯準決勝の秋田戦でFKを決めた田中。2-0の勝利に貢献した。(C)SOCCER DIGEST

 田中碧は、全力で「フリーキッカー」のイメージを否定したいらしい。天皇杯準決勝秋田戦後のweb取材でのことだった。勝利を盤石なものにした83分の直接フリーキックについて、田中自身の以前の発言を引き合いに感想を求められていた。

「結果を出さなければ、キッカーじゃなくなるものだと思ってるので」とする田中は、初めて決めた直接FKからの得点について「FKというチャンスを貰った中で、しっかり結果を残すことができたっていうのは、自分にとってもすごい大きな自信になりました」と回答。「良いアピールになったのかなと思います」と自らの答えを締めくくった。その直後「あ、でもあれです。フリーキックキャラっていう感じになると……。あの、フリーキックキャラではないので。たまたま入ったということにしといてください」と全力で自らの「フリーキックキャラ」のイメージを否定した。

 そう話す田中のFKに対する発言は、以前から変わっていない。例えば10月27日に行われた取材時のこと。

 3−0で勝利した10月18日の名古屋戦の先制点は、田中が蹴ったCKから生まれている。この試合のCKキッカーは中村憲剛が務めていたのだが、もともと田中も準備しており、また中村が言うには「目先を変えるというところで。碧に蹴ってもらって。球種がちょっとオレと違うので」とのことで田中が蹴り、三笘薫の先制点を呼び込んでいる。
 
 以下は、10月27日の取材での、名古屋戦についてのやり取りになる。

 名古屋戦で決めたCKからの得点について聞かれた田中は一言目で「そんなボク、キッカーじゃないので」と自らのキックセンスを否定。そうではなくて、コーチングスタッフがセットプレーについて解析し、用意してくれたパターン通りに蹴るだけだったのだと述べている。ただし田中はそれまでも無回転気味のFKを蹴ってきたこともあり、その件と合わせて質問されて次のように答えている。

 田中は「カーブが蹴れないんですよ」と告白。さらに「なんか分からないんですが、カーブを蹴ろうとしたらドライブになって。それが他の人と違うらしくて」とキッカーを務める理由を説明していた。それ以前からセットプレーでは蹴っていた田中だがこの時はまだ直接では一本も決めておらず「たまにやってるだけで、まだ一本も決めてないんで。決められるように頑張ります」と述べていた。

 2か月前の10月27日に頑張ると話していた、その一本目が天皇杯準決勝で出たのだからもっと胸を張っていいのではないかとも思うのだが、そこで「フリーキックキャラ」の色付けを否定するのが田中の謙虚さだということなのかもしれない。

 もっとも田中の一般的なイメージは、対人守備の強さで、例えば昨季のリーグ戦では「イニエスタ」という名前に臆すること無くガツガツと奪いに行く積極性を見せていた。そうした豪快なイメージの選手が繊細なFKを蹴るというギャップに、田中自身が落ち着かないのかもしれない。もちろん得点に絡み続けることでいつの日か「フリーキックキャラ」が浸透。本人もそれを受け入れる日が来るはず。そんな未来のためにもっと結果を残してほしいところだ。

取材・文●江藤高志(川崎フットボールアディクト)
 
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