“ストライカーの指南役”小林伸二監督の下で北九州FWディサロ燦シルヴァーノが覚醒【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年10月26日 小宮良之

山形時代には豊田陽平の才能を開花させる

昨季に法政大から加入したディサロ燦シルヴァーノ。1年目は7ゴールを挙げた。(C)SOCCER DIGEST

「ストライカーは育てるものではなく、生まれるもの」
 
 それは一つの定説で、真理に近い。

 生来的な資質、キャラクターが大きく影響する。得点を取る才能はトレーニングでは得られない、というのが定石である。特別なポジションだ。

 しかしながら、トレーニングによって研ぎ澄まされる部分はあるだろう。

 スペイン・サッカー史に残る伝説的ストライカーであるラウール・ゴンサレスは、10代前半にコーチとマンツーマンで、あらゆる形のシュートを繰り返し練習したという。ゴール前で相手を背に受け、右足アウトサイドのトラップで反転し、左足を振り抜く。

 あるいは、ワンタッチで左後ろに落とし、右に反転して左足にパスを呼び込んで、ダイレクトで合わせる。基本的なシュートのパターンをいくつも、どちらの足でも打てるようにしつこく練習したという。そのたび、コーチから指摘を受け、修正し、完全なものにしたのだ。

 トレーニングが重要なことは、言うまでもないだろう。監督やコーチの指導で、上達する面はある。あるいは、トップレベルのチームメイトとプレーすることで、成熟できる技術もあるかもしれない。本能だけでは、トップレベルでは安定的にゴールを取れないのも真理だ。

「(モンテディオ)山形に行ったことが、(キャリアの)転機になったことは間違いないです」

 J1リーグで通算98得点を記録している豊田陽平(サガン鳥栖)が、得心した様子で説明していたことがある。

「(プロに入るまで)自分はフォワードの動きとかはあまり教えられてきていなくて、本能でやっていたんです。でも、シンさん(小林伸二監督)に丁寧に教えてもらって。くさび、ボールキープ、ヘディング、反転からのシュート、それにどうやって裏に抜けるのか。状況に応じた練習メニューをやってもらったら、ゴールを取れるようになりました」

 当時、J2だった山形を率いていた小林監督の指導で、豊田はストライカーとして開花することができたという。
 
 現在は、J2のギラヴァンツ北九州を率いる小林監督は、数々のチームを昇格させてきた請負人だが、ストライカー指南役としても知られる。豊田だけでなく、長谷川悠、田代有三、ドウグラス、鄭大世など過去に多くのセンターフォワードたちのポテンシャルを十全に引き出している。いずれも、J1残留や昇格を争う状況での仕事であり、その成果は特筆に値するだろう。

 小林監督は現在も、ギラヴァンツで大卒2年目の左利きFW、ディサロ燦シルヴァーノの得点能力を覚醒させつつある(29節終了現在で、J2得点ランキング2位タイの12得点)。

【動画】27節の長崎戦で決めたディサロ燦シルヴァーノのゴールをチェック!

 ストライカーは生まれるもので、育てられない。

 しかし、どのような鍛錬を受けるか、ストライカーを生かす陣容でプレーできるか、など外的、副次的な要因も影響することも事実だ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。

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