連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】「自分たち次第」と「相手次第」 哲学がぶつかり合った川崎対神戸の好勝負

2015年03月16日 熊崎敬

最先端の川崎と勝負の厳しさを熟知する神戸。

川崎の風間、神戸のネルシーニョ両監督の哲学が真っ向からぶつかり合った川崎対神戸の一戦は、技術と戦術のスリリングなせめぎ合いで観る者を唸らせた。 (C) SOCCER DIGEST

 2-2の引き分けに終わった川崎と神戸の一戦は、今季のJリーグでも一、二を争う好勝負になるかもしれない。
 ゴールライン上でクリアされた大久保のシュートが得点に認められる判定は疑問が残るが、スリリングな技術・戦術のせめぎ合いは観る者を唸らせた。これは「お釣りが来る」試合だ。
 
 新メインスタンドが完成した等々力陸上競技場は、外観が巨大フェリーのように豪華になった。
 チームが強くなればスタジアムが大きくなる――。
 これは世界中のどんな国にも言えること。川崎市民は風間監督就任4年目にして優勝を狙えるチームと、それにふさわしいスタジアムを手に入れた。優勝するのは、まさに「いまでしょ!」だ。
 
 すでに全勝優勝は消えたが、このチームを完封できるチームはちょっと見当たらない。
 
 技術と知性を兼ね備えた11人の集合体。これがいまの川崎の強み。このチームの選手たちは敵に間合いを寄せられても、ほとんど動じない。一人ひとりがボールを自在に扱え、スルーパスを出し、ドリブルで抜くこともできる。もちろん、絶妙なタイミングと角度で味方がサポートに現われる。
 
 神戸はしたたかに縦のルートを封じ続けたが、それでも中村や大島は浮き球を駆使して敵の背後を取り続けた。二次元がダメなら三次元。最先端の武器を持つ川崎は、どこからでも敵を崩してしまう。なにしろ最終ラインの角田や武岡も、決定的なパス、ドリブルができるのだ。
 
 風間監督は事あるごとに「自分たち次第」と語るが、納得できる。彼らはサッカーという不確定要素に満ちたゲームを、意のままに操るところまでレベルアップしている。
 
 どこをどう抑えればいいのやら……。川崎と対戦するチームの監督たちは正直、頭を抱えているだろう。
 
 だが、神戸のネルシーニョは違った。
 川崎の風間監督が「自分たち次第」なら、こちらは「相手次第」。日本国内のすべてのタイトルを獲り尽くしたブラジル人指揮官は、研ぎ澄まされた集中力と勝負勘によって、万能の技術を持つ川崎を揺さぶり、わずかな隙をこじ開けることで勝利を引き寄せようとした。
 
 神戸は背後から厳しく当たり、裏を取られない絶妙なポジションを取ることで川崎の突破力に対抗した。球際では一歩も引かず、最終ラインのカバーリングは完璧に近かった。
 再三、ペナルティエリアに侵入されたが、GK山本と最終ラインは間一髪のところでシュートを身を挺して阻み続けた。
 
 彼らは、ただ守っただけではない。
「ピンチはチャンス」であることを熟知した彼らは、ボールを奪うたびに巧妙に切り返して、川崎を脅かした。またGKから近場につなぐゴールキックにも圧力をかけ、敵のリズムを崩しにかかった。
 一見、守りに追われながらも、神戸は心理的に川崎の喉元にナイフを突きつけながらプレーしていたのだ。
 
 就任間もないネルシーニョは、神戸をウルグアイのような油断ならない軍団へと変えようとしている。
 最先端のフットボールを見せる川崎と、勝負の厳しさを熟知する神戸。好対照な哲学を持つふたつのチームが、今季の主役になるかもしれない。
 
取材・文:熊崎敬
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