J1の得点ランクTOP15に9人…ブラジル人FWはなぜ“当たる”のか【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年09月05日 サッカーダイジェストWeb編集部

かつてジュニーニョが語っていた覚悟

(左から)レアンドロ、レオナルド、マルコス・ジュニオール、エヴェラウド。いずれも得点ランクの上位に名を連ねる。(C)SOCCER DIGEST

 今シーズンのJリーグ、ここまで14ゴールで得点ランキング首位を走るのは、柏レイソルのケニア代表FWオルンガである。

 オルンガは、並外れた身体能力と体躯を生かし、どこからでも得点が取れるストライカーだろう。滞空時間の長いヘディング、伸びるような足、振り抜かれるシュート。相手ディフェンダーから強引にボールをかっさらい、そのままゴールというシーンも少なくない。かつてのパトリック・エンボマのような"問答無用さ"だろうか。

 しかし得点ランキングで目立つのは、ブラジル人ストライカーの存在である。8月31日段階、得点ランク上位の1位から15位までの9人が、ブラジル人。その存在なくして、Jリーグを語ることはできない。

 浦和レッズのレオナルド、鹿島アントラーズのエヴェラウド、ヴィッセル神戸のドウグラス、川崎フロンターレのレアンドロ・ダミアン、そして柏から横浜F・マリノスに移籍したジュニオール・サントスは、とにかくパワーに優れる。マーカーを吹っ飛ばすようなヘディング、相手を交わしてから腰が入った強烈な一撃で、リーグを席巻。体と体を合わせた時の単純な強さとしなやかさを感じさせ、得点が増えているのは必然だろう。

 横浜F・マリノスのマルコス・ジュニオール、FC東京のディエゴ・オリヴェイラは、プレーメーカー的な適性も感じさせる。中盤に落ちて、あるいはサイドに流れ、攻撃も組み立てられる。変幻自在で、戦術的な能力も高い。また、FC東京のレアンドロはキックに優れ、今シーズンのJ1フリーキッカーとしてはベストではないか。

 まさに多士済々である。

 しかし本当に特記すべきは、ブラジル人選手たちの適応力だろう。

 非凡な力を持っていても、環境に適応できなければ、宝の持ち腐れとなる。ブラジル人の優れた特性は、状況にフィットし、アドバンテージを出せる点にあるだろう。鳴り物入りで入団するブラジル人もいるが、国際的には無名ながら日本でプレーし、その名を広く知らしめる選手も少なくない。"海を越えた新天地で人生を切り開く"という決意を自然に備えているのだ。
 
「ジュニーニョというイメージを、このチームに残したい。自分がここにいた証を。次に来たブラジル人が"ジュニーニョというブラジル人がいた"とリスペクトされる選手になりたいんだ」

 かつてインタビューした時、川崎フロンターレで得点王に輝いたジュニーニョが語っていたことがある。その覚悟が適応につながるのかもしれない。

 その結果、足跡を刻むように、多くのブラジル人得点王が出た。ウィル(コンサドーレ札幌)、ウェズレイ(名古屋グランパス)、エメルソン(浦和レッズ)、アラウージョ(ガンバ大阪)、ワシントン(浦和レッズ)、マグノ・アウベス(ガンバ大阪)、マルキーニョス(鹿島アントラーズ)、レアンドロ(ヴィッセル神戸)、ジョー(名古屋)、マルコス・ジュニオール(横浜)。規律や秩序が重んじられる日本で異文化を理解するだけでなく、その環境を触媒に進化を遂げた。

 今シーズンも、その継承は途絶えていない。

 筆者は、今シーズンの得点王にはブルーノ・メンデス(セレッソ大阪)を推しているが、はたして――。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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