懐かしき名手の秘話。屈指の人気者だったサビオラの独占ショットを撮った方法とは?【南米サッカー秘蔵写真コラム】

2020年09月05日 ハビエル・ガルシア・マルティーノ

移動バスに乗り込んだサビオラを呼び戻すために…

若き日のサビオラを収めた貴重な一枚だ。その表情にはあどけなさが感じられる。 (C) Javier Garcia MARTINO

 今はボカ・ジュニオルスの専属フォトグラファーを務めている私だが、昔は他のクラブを取材する機会も多かった。特に2000年代前半はボカのライバルであるリーベルプレートに行くことが頻繁にあり、今回紹介する写真もその頃に撮影したものだ。いずれもサッカーダイジェスト誌に掲載されたもので、覚えている方もいるかもしれない。

 まずは、2001年の秋に撮った19歳のハビエル・サビオラだ。16歳でプロデビューした彼は、この時すでに国内屈指のスター選手となり、かなりの人気者だった。

 この日、練習風景だけではもの足らず、どうしても近影のショットが欲しかった私は、「出待ち」をすることにした。リーベルは、ブエノスアイレス郊外にあるホテルで合宿をしながら敷地内の施設でトレーニングを行なっていて、選手たちは練習を終えた後、バスに乗ってホテルに向うことになっていた。

 メディア関係者はホテルには入れないため、取材や撮影のチャンスは移動バスに乗る前に限られている。ゆえにサビオラが姿を見せるとテレビカメラと記者たちが瞬く間に囲んでしまい、その輪の外からは彼の姿が全く見えなくなった。

 そんな光景も面白いと思って写真に収めようとしたが、小柄なサビオラは文字通り完全包囲されてしまって頭の先さえも見えなかった。
 
 かれこれ20分ほど待っていただろうか。その間に肩にかついでいたままだった一脚つきの望遠レンズをバッグにしまおうと思い、ほんの2~3分ほど目を離したその時のことだった。

 テレビカメラのクルーたちが一斉に輪を崩して動き出したかと思うと、まるで得意のドリブルでマーカーたちをかわすかのように素早く、軽快に、サビオラがさっさとバスに乗り込んでしまったのだ。

 だが、ここで諦めるわけにはいかない。私はバスに歩み寄り、開いていたドアのすぐ傍にいたトロ(※当時のリーベルのアメリコ・ガジェゴ監督の愛称)に事情を説明すると、彼は後方に座っていたサビオラを呼んでくれた。

 監督に「他の選手たちが来るまでまだ少し時間があるから大丈夫だ」と言われたサビオラは笑顔でバスから下り、快く撮影に応じてくれたのだった。たまたま後ろにあった自転車が、どことなく雰囲気を醸し出す、いい小道具になっているだろう?

 このあとアルゼンチンで開催されたU-20ワールドカップで大活躍し、母国の優勝に貢献したサビオラは、バルセロナへと旅立って行った。

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