世界と戦うために迫られる「陣形の選択」――Jリーグでは3-4-2-1が主流だが…【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年08月21日 小宮良之

戦力差を考えた上で一つの有効な手段

ロシアW杯で日本を破ったベルギーは、このコンパニ(右)を中心とした3バックの奮闘もあり4強へ勝ち進んだ。(C) Getty Images

 兵法には定石がある。例えば、戦力的に上位の方が鶴翼の陣という鶴が大きく翼を広げたように横に大きく展開し、相手を包囲殲滅する陣形を用いる。一方で戦力的に下位の方は、魚鱗の陣をしばしば採用。魚の鱗を一枚一枚はがさせるように横を分厚く守りながら、縦に伸びた魚の口元から、一点集中で急所を貫ける陣形だ。

 サッカーの陣形も、どちらかと似ている。

 4-4-2は「最もオーソドックス」で、4-2-3-1は「最もバランスに優れる」と言われる陣形だが、鶴翼に近いだろう。ダブルボランチで舵を取りながら、サイドで優位を作る。そして中央の守りを緩めたところで、一気にゴールへと迫る。

 2000年代初期、ハビエル・イルレタ監督はデポルティボ・ラ・コルーニャを率いて、4-2-3-1で数々の勝利を積み重ねた。デポルはビッグクラブとは言えないが、当時はボランチにマウロ・シルバ、トップ下にジャウミーニャ、ファン・カルロス・バレロン、サイドにフランという欧州屈指の選手たちを擁し、真っ向から挑むことができた。

 2003-04シーズン、チャンピオンズ・リーグ準々決勝でACミランにアウェーで1-4と負けた後、ホームで4-0とひっくり返した試合は、今も語り草である。
 
 Jリーグでは、3-4-2-1という陣形のクラブが多い。

「4バックでは守り切れない」

 それが一つの理由だと言われる。3-4-2-1は5-4-1にも可変。守備を重視したシステムで、外から1枚はがされても、それをカバーして埋め、その間に鱗を再生させる。

 横からの崩しにも、正面からの崩しにも、隙を与えない。その分、相手を押し込むことはできなくなるが、トップには一気にゴールに迫れるスピードのある選手、マークを外して裏を抜けられる選手、一発のパスがある選手、もしくはドリブルで打開できる選手などを配置。勝機を見出すことができる。

 ただし、攻撃の選手も守りに入った時の献身性が求められる。戦力差を考えた上で、3-4-2-1は一つの有効な手段となる。ただ、これで世界を勝ち抜くには、何より3バックが高く強くなければならない。さもなければ、押し込まれた時に単純なセットプレー、もしくはパワープレーで攻め落とされてしまうのだ。

 ロシア・ワールドカップで言えば、準決勝に進出したベルギーとイングランドの両チームは、この優位性を持っていた。強力なセンターバックが3枚いることで、まずは守備における高さ、激しさに負けなかった。そしてセットプレーという飛び道具で優位を得ることで、彼らは守りのアドバンテージを得点にもつなげられたのだ。

 日本が世界と戦って勝ち切るには――。まずは陣形の選択を迫られる。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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