「家族には…」6000万円で買われ、6クラブもレンタルされたアーセナルの“苦労人GK”がFA杯制覇に男泣き

2020年08月02日 サッカーダイジェストWeb編集部

家族を養うために欧州挑戦を決断

優勝決定直後にピッチで泣き崩れるマルティネス。それだけの想いが詰まったビッグゲームだった。 (C) Getty Images

 苦労人のGKが見せた涙がファンの心を打った。

 現地時間8月1日に開催されたFAカップ決勝で、アーセナルはピエール=エメリク・オーバメヤンの2ゴールでチェルシーに2-1の逆転勝ち。史上最多14度目の優勝を成し遂げた。

 2019-20シーズンのプレミアリーグを8位で終えていたアーセナルだっただけに、ヨーロッパリーグ出場権を獲得する意味でも、昨年12月に誕生したミケル・アルテタ政権での初タイトルという意味でも、重要な勝利となった。

 見事な戴冠劇において小さくない活躍を見せたのが、アルゼンチン人GKエミリアーノ・マルティネスだった。開始早々の4分にクリスティアン・プリシッチに先制点を許したが、その後は安定感のあるセービングで、しばらく続いたチェルシーの波状攻撃を封殺。逆転勝利への機運を高めた。

 まさしく獅子奮迅の活躍を見せたマルティネスだが、そのキャリアは決して平たんではなかった。このファイナルの出場機会も正GKであるベルント・レノの負傷離脱によって得たものだ。

 2009年にアルゼンチン代表として出場したU-17南米選手権での活躍がアーセナルの目に止まり、貧しい生活をしていたという家族を養うために、10年4月に移籍金50万ユーロ(約6000万円)でインデペンディエンテから加入。だが、当時のGK陣には、ドイツ人の名手イェンス・レーマンや経験豊富なスペイン人GKマヌエル・アルムニア、さらには後の正守護神となるヴォイチェフ・シュチェスニーもいたため、18歳の若手に付け入る隙はなかった。
 
 その後、2012年5月にイングランド3部のオックスフォード・ユナイテッドに期限付き移籍したのを皮切りに、シェフィールド・ウェンズデー、ロザラム、ウォルバーハンプトン、ヘタフェ(ラ・リーガ)、レディングとレンタルで転々とした。

 一時はアーセナルU-23でのプレーも強いられたが、それでも「毎晩のように電話していた」という父親のサポートもあり、直向きにプレー。すると、今シーズンにペトル・チェフの引退という事情も重なって、ようやく第2GKに収まると、ついには今年6月のレノ負傷を受けて、先発の座を射止めたのだ。

 ようやくスポットライトを当てられる舞台に立ったマルティネス。FAカップの決勝後には、英公共放送『BBC』のフラッシュインタビューに応じ、インタビュアーから「家族もきっと見ていますよ」と訊かれると、大粒の涙を流しながら、次のように答えている。

「本当に何と言ったらいいかわからない……。家族に関しては本当に何も言えない。とにかく信じられない。試合前には、オーバメヤンに『君が僕らを優勝に導いてくれる。優勝させてくれ』と話していたんだ。本当にそうなってよかった」

 シーズン最後の大一番で見せ場を作ったマルティネス。その活躍ぶりを考えると、レノの座も安泰とは言えないかもしれない。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部

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