アザールをコンバートしてまでジダンが起用したヴィニシウスの“スピリット”。残酷なまでに対照的なのが…【現地発】

2020年07月01日 エル・パイス紙

「ドリルのように勢いよく相手DFに突き進む」

荒削りながらダイナミックなプレーで魅了しているヴィニシウス。(C) Getty Images

 サッカー選手は迷いを持ちながらピッチに立つことは許されない。トップレベルのステージならなおさらで、毎試合、決死の覚悟を見せることが要求される。

 シーズンが佳境を迎えているラ・リーガで一流の選手に不可欠なこのスピリットを、目を見張るほどの熱量で体現しているのが、レアル・マドリーのヴィニシウス・ジュニオールだ。

 スタミナ配分に気を使ったり、ミスすることを恐れてチャレンジすることを躊躇したりする選手が少なくないなか、ボールを持ち、空いているスペースを見つけるや、ドリルのように勢いよく相手DFに突き進み、ゴールに迫っていく。

 たしかにヴィニシウスのプレーは、何事においても極端だ。しかしだからこそ、チームの勝利のためになんだってするという意欲も人一倍強く、とにかく無我夢中にプレーしている。
 
 現在このヴィニシウスと残酷なまでに対照的な状況にあるのが、ガレス・ベイルだ。ピッチ上の彼の振る舞いからは、今自分が置かれている状況に対する不満が明らかに見て取れる。今シーズン、レアル・マドリーの右サイドの定位置は空位の状況が続いている。ベイルにとっては好機であるはずだが、悶々としながらプレーしていては、レギュラーの座は遠ざかる一方だ。

 全身全霊をかけて物事に取り組む人間は心に訴えるものがあるものだ。ジネディーヌ・ジダン監督もヴィニシウスのそんな姿に感銘を受けたのだろう。マジョルカ戦(マドリーが2対0で勝利)では、左サイドのレギュラーの一番手であるエデン・アザールをトップ下に配置転換してまで、ヴィニシウスをそのもっとも得意とするポジションで起用した。

 アザールは言うまでもなくチームのヒエラルキーの中で最上位に位置する選手だ。その意味でも、出場機会は努力で勝ち取らなければならないというフットボールの鉄則を行動で示したジダンの決断は見事だった。

 見事という評価はもちろんヴィニシウスにも当てはまる。ゴールに向かってプレーすることしか頭にない19歳の若者の気概がラ・リーガのタイトル奪還を目指すマドリーの原動力になっている。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
 

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