“3度の試練”を乗り越えて鮮やかに復活したアセンシオ――リハビリを支えたラウールの存在【現地発】

2020年06月21日 エル・パイス紙

「最初は怪我をした現実を受け入れられない様子だった」

復帰戦でファーストタッチ弾など1G・1Aの活躍を見せたアセンシオ。(C) Getty Images

 マルコ・アセンシオが左膝の前十字靭帯と外側半月板断裂の重傷を負って以来、10か月近くが経過し、初めて全体練習に参加した5月のある日だった。バルデベバス(練習場)を訪れた彼は指定された体重計に乗ると、その目盛りは怪我をした当日に計った時よりもマイナス数グラムの数値を表示した。

 それは忘れもしない去年の7月24日。アセンシオはワシントンDCのフェデックス・フィールドでインターナショナル・チャンピオンズカップのアーセナル戦に出場していた。

「心機一転で新シーズンに臨んでいた」という強い覚悟がプレーに乗り移ったかのように、後半にエデン・アザールに代わって投入されると、ガレス・ベイルの先制ゴールをアシストし、さらに続け様に自ら2点目をマーク。しかしその直後にアクシデントが待ち構えていた。

「人生って調子がいい時に突然不運に見舞われる。ほんの一瞬の間に状況が一変した」

 翌日、アセンシオは自身のツイッターでこう心境を吐露した。
 
 今シーズンに懸ける強い気持ちは、また昨シーズンの不甲斐なさに対する自責の念でもあった。「プレーに集中できていなかった」と周囲の人間が振り返るように、低迷するチームに引きずられるように低調なパフォーマンスを繰り返した。

 新シーズンに集中するために、クラブの意向に沿って6月にイタリアで開催されたU-21欧州選手権への参加を辞退(スペイン代表は優勝)。オフの間、徹底的にフィジカルを強化した。その甲斐あり好スタートを切ったが、「好事魔多し」を体現する形になってしまった。

「最初は怪我をした現実をまったく受け入れることができない様子だった」と周囲の人間が認めるほど、打ちひしがれたが、父親、兄弟、恋人の協力を得て1か月が経つと徐々に立ち直っていった。

 さらに家族だけでなく、クラブの関係者からOBに至るまで多くの人間がサポートを買って出た。その中で特に重要な支えになったのがカスティ―ジャの監督でもあるラウール・ゴンサレスで、バルデベバスで日々会話を重ねながら、相談相手になっていた。

 そうした周囲の人間のバックアップも味方に、アセンシオはひとたびやる気と意欲を取り戻すと、一心不乱にリハビリに取り組んだ。午前はクラブの施設で、午後は専属のトレーナーと一緒に汗を流し続けた。熱が入るあまり執刀医がブレーキをかけなければならないことは一度や二度ではなかった。
 

次ページ走れるようになった矢先にコロナ禍に巻き込まれ…

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