指揮官に自ら進言。「俺を中盤で使ってください」【ファルカン・ジャパンの“10番”岩本輝雄の栄光と苦悩の記憶|EP3】

2020年06月14日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

「ダメなら、ダメでいいや」

アシックスカップのガーナとの2戦目では、山口のクロスにヘッドで合わせて待望の代表初ゴールを決めた。(C)J.LEAGUE PHOTOS

【前回までのあらすじ】
 5月のキリンカップ、オーストラリアとフランスとの2試合に岩本輝雄は先発出場を果たす。ポジションは左SB。世界との差を痛感したが、「いろんなことを学んだ」有意義な経験だった。選手としてより高みを目指すようになり、そして、もし次も代表に選ばれたら「監督に絶対に言おう」と固く心に誓ったことがあった。

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<エピソード3>
 キリンカップ後、ベルマーレではSBだけでなく、中盤でも起用されるようになる。そもそも「自分は中盤の選手だし」という思いがあった。Jリーグで数試合を戦い、「やっぱり俺、SBじゃないな」と考えるようになる。

 ファルカンが視察に訪れた6月の浦和戦でも、中盤でプレー。試合は2-4で敗れるが、「俺的には、しっくりきた。けっこうチャンスを作っていたし、自分で仕掛けてPKを取ったり」と、"MF"としての自信を深めていく。

 そして、ガーナとの2連戦が組まれた7月のアシックスカップでも代表に招集される。チームの合宿が始まってすぐ、練習が終わると、テルはファルカンに直談判した。

「俺を中盤で使ってください」

 まだ日本代表での目立った実績もなく、有望株のひとりに過ぎなかった若手が、指揮官に起用ポジションについて進言する。「ダメなら、ダメでいいや」。迷いは一切なかった。ベルマーレでは日々、コーチのニカノールと接しており、「外国人はわりと選手の意見を聞き入れてくれる。だから、一度、話し合ってみようと思っていた」。

 思い切った行動である。ともすれば、ベテランの選手から"なんだ、若造のくせに生意気な"と思われても不思議ではないが、テルは「まったく気にしなかった」という。
 
 果たして、テルのリクエストは受け入れられた。ガーナとの初戦、中盤左サイドのスタメンを勝ち取り、フル出場。3-2で競り勝ったゲームで、希望のポジションでのプレーだったからか、自分から言っておきながら下手なことはできないという想いからか、攻守両面で労を惜しまず走りまくった。チャンスとなれば果敢にミドルシュートを狙った。

 代表での活動は、これが2回目。もう緊張はしなかった。当初はタイトな日程に面食らったJリーグにも慣れてきて、コンディション作りの要領も分かってきていた。心身ともに充実した状態で挑んだアシックスカップ。「やってやろう」と意気込んでいた。

「(1戦目を終えて)監督から特に何か言われたわけじゃないけど、2戦目もスタメンだったから、悪くない評価だったんじゃないかな」

 1戦目と同じく中盤左サイドでプレーしたテルは23分、待望の代表初ゴールを決める。"中盤で使ってほしい"と自ら申し出たその正当性を、目に見える数字で証明してみせた。

「右サイドからカットインしてきた山口(敏弘)さんと目が合った。山口さんとはプライベートでも仲が良くて、代表でもよくしてもらっていた。阿吽の呼吸だね」

 山口から、ふわりとしたクロスが入る。逆サイドでスタンバイしていたテルは、「前にDFがいたけど、相手より早くジャンプして」豪快なヘディングシュートを流し込んだ。
 

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