【広島】兄のゴールにも「なんか、むかつく」。浅野雄也が抱く拓磨へのライバル心

2020年06月05日 中野和也

「タクには負けたくない」という気持ちが消えることはなかった

鹿島との開幕戦に途中出場した浅野雄也。リーグ再開後も活躍が期待される注目株だ。写真:滝川敏之

 タクマとユウヤは、走り方が違う。
 
 森崎和幸と森崎浩司は特長のある走り方で、言葉どおりの瓜ふたつ。普通に走っている姿を見たら、まったく見分けがつかない。しかし、浅野家の三男・拓磨(現パルチザン)と四男・雄也は、手の使い方が違う。弟・雄也のほうが手を水平に使いがちでフォームが明確。拓磨もやや横方向に腕が広がるが、どちらかというとオーソドックスだ。

 プレースタイルも違う。兄・拓磨はまさにストライカー。50メートル5秒台という超絶なスピードが目立つが、本質的にはゴール前で勝負する。彼のスピードを活かしたいと欧州の指導者はサイドで使おうとしたが、彼にチャンスメーカーは似合わない。クロスやパスよりも、やはりシュート。ゴール前での駆け引きを楽しみ、ペナルティエリアの幅の中で勝負するタイプで、本質的には佐藤寿人(現・千葉)のスタイルを受け継ぐ選手である。

 一方の弟・雄也は、紛れもなくチャンスメーカーだ。サイドにポジションを取ってボールを受け、兄と遜色ないスピードを活かして突破し、大阪体育大時代はプレースキックも任されていた得意の左足でクロスや決定的なパスを出す。

 もちろん、得点を狙いに行く迫力もあるが、それは彼の魅力のひとつに過ぎない。「雄也がボールを持つと必ず突破してくれるし、良いクロスを流してくれる。FWの僕からすれば、サポートする必要もないし、ゴール前でクロスかパスを待てばいい。一緒にプレーするのが楽な選手ですね」と永井龍は語る。

 四日市中央工高で活躍し、高校選手権では得点王にも輝いて、リオ五輪代表からA代表へ上り詰めた兄と違い、弟は遅咲きである。大阪体育大から水戸にプロ入りした時も「拓磨の弟」という注目のされ方はするものの、彼のプレーそのものに光が当たることは少なかった。

 しかし、彼はずっと自分を見失っていない。少年時代から拓磨と切磋琢磨し、「俺のほうが上手い」と言い合いながら、激しい兄弟喧嘩も厭わずに育ってきた。拓磨がプロで活躍しても、「タクには負けたくない」という気持ちが消えることはなかった。

 セルビア・リーグのバルチザンで拓磨がゴールを決めても「なんか、むかつく」。広島時代の兄の活躍についても「特に興味はなかった」と嘘ぶく。兄と弟というよりも、絶対に負けたくないライバルという意識の方が常に勝っていた。

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