【担当コラム|横浜FC】俊輔が語る引き際の美学、そして静かなる野望について

2020年04月22日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

求めたいのはゴールに直結する創造性溢れるプレーだ

今季、横浜FCで2年目を迎える俊輔。1-1で引き分けた神戸との開幕戦ではトップ下で先発し、献身的なプレーで勝点1奪取に貢献した。写真:徳原隆元

 言うなれば、サイズの合わない服を着せられて、どこか窮屈そうだ。正直に言えば、今ひとつ、パッとしない。

 ポジションは4-2-3-1のトップ下。攻撃の中心的役割を担う一方、守備時はCFと横並びになり、自陣での秩序だったブロック形成に加勢する。

 物足りなさを感じるのは、後者の時間が長いことだ。相手のボールの動きに合わせて、不用意にスペースを空けないよう、前後左右に足を動かす。プレスバックも精力的だ。時には、長い距離を走ってのハイプレスもこなす。

 要は、ボールを握ってのプレーが少なすぎる。昇格組の横浜FCで、どうにも中村俊輔は"らしくない"。そんな印象が拭えないのだ。

 もちろん、守備で手を抜いているわけではない。「(守備は)苦手、というか嫌いかも」と言うわりには、ピッチ上では懸命に相手ボールを追いかける。走り出す前、一度下に向けた顔をグッと持ち上げ、両手を思い切り振って、加速する。今に始まったことではない。横浜F・マリノス時代も、トリコロールに彩られたユニホームの白いパンツは、後半の途中からよく汚れていた。身体を張って守っている証拠だ。
 
 チーム戦術の遵守。その組織的かつ献身的な振る舞いがもたらす貢献は決して小さくない。ただ、『ファンタジスタ』としての生き方を極めようとしている希代のレフティが、本来の持ち味を発揮し切れないまま時間が経過していくのは、あまりにももったいない。

 6月には42歳になる。現役として残された時間は限られているはず。守備面の奮闘もいいが、やはり俊輔に求めたいのは、ゴールに直結する創造性溢れるプレーだ。

 そんなこちらの勝手な願望をよそに、俊輔は以前、こんな風に語っていた。そこに、一プレーヤーとしての引き際の美学も見え隠れする。

「自分にできること、求められることは、全部やる。ガンガン走って、サッカーを全力で楽しむ。そのほうが"やりきった感"で選手を辞められる。そういう想いがベースにあるから、どんな要求をされても、不満なんてひとつもない」

 守備のタスクが多くても、さらにはポジションがどこだろうが、今の俊輔には些末な問題でしかないのかもしれない。雑念にとらわれず、全身全霊でサッカーに打ち込む。スパイクを脱いだ後、後悔しないためにも。

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