「最後まで控えめに…」誰からも愛された“グアルディオラの母”ドロルスさんの命を奪ったコロナウイルス【現地発】

2020年04月21日 エル・パイス紙

「息子の成功よりも健康を」

愛する母を突然失ったペップ。最後は対面も叶わなかったという。(C) Getty Images

 ドロルス・サラ・カリオはおそらくグアルディオラ・ファミリーの中でもっとも無名の人物だった。いやその親切で寛大な心が意識的にスポットライトを浴びることを避けていたのかもしれない。実際、彼女を知る人間は一様にその人柄に魅了され、サントペドールの村では誰からも愛されていた。

 近年、体力が著しく衰えて外出する機会がめっきり減少し、自宅で静養しているとは伝えられていた。そんな彼女の楽しみが、友人たちの訪問と祝日にモンセラット修道院のミサのライブ中継を見ることだった。

 特筆すべきは、持ち前の寛容性はいつまでも変わらなかったことだ。現在夫のバレンティは自分たち夫婦、ジョゼップ・グアルディオラを含めた4人の息子に関する伝記を執筆しているが、その作業への協力も惜しまなかった。

 この夫婦は非常に対照的で、夫は豪快で目立ちたがり屋。息子が有名になるにつれ、周囲に取り巻きが増えても、誰とでも社交的に付き合った。だからこそ、バレンティにとって妻の存在は必要不可欠だった。

 したがってバレンティの顔は広く世間一般に知られているのに対し、ドロルスが出てくる映像はほとんど残されていない。しかし心が広く、自己犠牲の精神に溢れ、笑顔が似合うペップの性格は間違いなく母親から受け継がれたものだ。
 
 息子4人の話をするときは、いつも愛情に満ちていて、母親らしく彼らが社会的に成功を収めるよりも、日々健康に過ごすことを何よりも気にかけていた。そんな彼女の命を今月6日、新型コロナウイルスが奪った。享年82歳だった。

 ウイルスに感染するリスクは誰にでもあり、ドロルスのような控えめで穏やかな人間にさえ容赦はしない。そしてそんな最後のときでさえ、彼女は自らの生き様を示すかのように傍観者のごとく静かに天国へ旅立っていった。

 最後のお別れさえ言えなかった、ペップをはじめとした家族の悲しみの大きさは計り知れない。グアルディオラのことを誰もが「ペップ」と呼ぶようになっても、ドロルスは息子の話をするとき、常に「ジョゼップ」と呼び続けた。彼女の人となり、親子2人の絆と愛情の深さを物語るエピソードだ。

文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事