「小柄なのはマイナスではない」バルサを変革させたクライフのフィロソフィ【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年04月21日 小宮良之

クライフは既成概念を覆せる天才だった

バルサ下部組織出身の(左から)メッシ、シャビ、ペドロはいずれも小柄なプレーヤーだ。(C) Getty Images

 FCバルセロナの始祖とも言えるヨハン・クライフは、下部組織であるラ・マシアの在り方に対し、こう言葉を述べている。

「小柄なことはマイナスではない。(ユース年代で)小さくて目立つ選手は、大きな選手を相手にボールテクニックで打ち負かす術を、時間をかけて身につけている。だから大人になって、大柄な相手にも自然と優位を得られる。むしろ、小さな選手に目を掛けるべきだ」

 クライフは、既成概念を覆せる天才だった。過去の育成面では、バルサであってもフィジカル的な能力が重視されていた。単純に体が大きく、背が高く、足が速くて、筋力がある。いわゆる、運動選手としての才能が注目されていたのだ。

"空飛ぶオランダ人"は、そこに革命的なテコ入れした。例えば、華奢に見えたジョゼップ・グアルディオラを、率先して第一のプレーメーカーに指名している。また、身長160センチ台と小柄だったセルジ・バルファン、アルベルト・フェレールをラ・マシアから次々に抜擢。そして、「ドリームチーム」の基礎とした。

 革新的なフィロソフィのおかげで、ラ・マシアは特別な選手たちを生み育てることができたのだ。シャビ、アンドレス・イニエスタ、そしてリオネル・メッシ……。世界最高の領域にたどり着いた3人は、いずれも小柄だったし(メッシなど成長促進剤の注射を打ち続ける必要があったほどだ)、成長しても小柄のままだったが、大男たちを手玉に取り続けた。彼らは、ボールを味方にすることができたからだ。
 
 その伝統はいくらか変質しつつある。昨今は明らかにアスリート色が増している。ラ・マシア全体に、屈強な選手が増えているのだ。

 しかし20歳のリキ・プッチなどは、クライフの教えを守って育てられた選手と言えるだろう。身長は170センチに満たず、小さく細身だが、ボールプレーヤーとしては卓抜。パス一本でプレーの渦を作り出せる。

 また、バルサBの主力で20歳のMFモンチュは身長160センチ台と小柄だが、サイドバック、ボランチ、アンカー、インサイドハーフなど複数のポジションをこなせるユーティリティで、戦術眼が光る。トップにいるセルジ・ロベルトと同じような存在になるかもしれない。

 ちなみに幼少期の久保建英も、かなり小さかった。

 欧州の他のクラブではいまだに身体のサイズだけを見て、入団を見送る場合もある。事実、同じようなサイズだったアントワーヌ・グリーズマンは、13歳になるまでフランスのクラブにはどこにも見向きもされなかった(レアル・ソシエダの下部組織に入団)。身体能力の高さは、変わらずスカウティングの土台の一つなのだ。

 かつての久保はバルサの選手として、飛び抜けた技術とパーソナリティーが見込まれた。ボールを持てば、誰にも負けない。そのスカウティングの正当性は、バルサ復帰という形では証明されなかったものの、マジョルカでの活躍は眩しいものがある。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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