マラドーナに「興味がない」と言い放つリケルメの独特すぎるリーダーシップ――【南米サッカー秘蔵写真コラム】

2019年12月23日 ハビエル・ガルシア・マルティーノ

3万8000人ものソシオを動かすカリスマ性

快晴の空の下、ボンボネーラで満面の笑みを浮かべるリケルメ。この表情は、彼が心を開いた人間にしか見せないものだ。 (C) Javier Garcia MARTINO

 ファン・ロマン・リケルメがこの度、ボカ・ジュニオルスの副会長になった。

 会長選が行なわれた12月8日(現地時間)に私はボカの試合のためにロサリオに行かなければならず、選挙会場にはいなかったのだが、現場にいた知人の話によると、リケルメが投票に向った時、大勢のボケンセ(熱狂的なボカ・ファン)たちが飛び跳ねながら、チャントを歌って同行したせいで、会場の床が揺れたらしい。

 さすが、リケルメだ。彼は実際に、行く先々で地面を揺らがせるほどのカリスマ性を持っている。3万8000人ものソシオが投票したのも、他ならぬリケルメが呼びかけたからだ。過去24年間にわたってボカを率いた一派に勝つために、今こそ立ち上がろうと反旗を翻した彼に多くの人が賛同した。サッカーのクラブの会長選で投票数が3万5000を超えるとは並大抵のことではない。

 そんなカリスマ性を秘めるリケルメだが、一般的なリーダー格の人とは、ちょっと違う。大抵の場合は無表情で、淡々とした口調でものを言う。ただ不機嫌なのか、それとも何かに怒っているのか、そのどちらかにしか思えないような空気を常に漂わせているのだ。

 ある社会学者が「スラム街で生まれ育った人は一般的に外部の者に対する警戒心が人一倍強く、その結果どうしても近寄り難い雰囲気を醸し出してしまう」と話していたのを聞いたことがあるが、リケルメの場合はその典型と言えるかもしれない。

 でも彼は、一旦、心を開いた相手に対してはとても人懐こくて純粋な一面を見せる。その一方で、一度でも信用を失ったらその相手を徹底的に敵扱いする。例を挙げるとするならば、ユース代表時代からの親友パブロ・アイマールが前者、ディエゴ・マラドーナが後者だろう。

 マラドーナはアルゼンチン代表監督だった時、テレビ番組の中で当時のリケルメについて、「招集しうる選手だが、今のようにマーカーもかわせないような状態では」と評したことで完全に信頼を失った。あれからもう10年以上経つが、リケルメはマラドーナについて仲直りするどころか「興味がない」と言い放っている。

 さて、前置きが長くなってしまったが、今回紹介するのはそのリケルメの写真だ。2014年にボカのオフィシャルマガジンのために撮影したもので、トレーニングのあと、たっぷりと時間を割いてポーズをとってくれた。

 リケルメ、いや、ロマンと私は長い付き合いだ。友人というのではなく、「ボカの選手」と「フォトグラファー」の関係にすぎないが、互いに同じルールを尊重し、信頼関係を築いている。こんな笑顔を見せてくれたのも、ロマンが私を信用してくれているからだ。

 リケルメはこれから、ボカのサッカー部門を全面的に任されることになっている。下部組織からトップチームまでの全マネージメントを担い、2007年以来遠ざかっているコパ・リベルタドーレス優勝を目指す。クラブ役員としての仕事は複雑だが、あえて困難な道を選んだ彼を支援したい。

 現役時代にピッチの中であらゆる局面を打開したように、外からも皆を驚かせ、魅了させるような司令塔ぶりを見せてもらいたいものだ。

文●ハビエル・ガルシア・マルティーノ text by Javier Garcia MARTINO
訳●チヅル・デ・ガルシア translation by Chizuru de GARCIA
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