「マレティーネス」の世界のタフな現実 アギーレの八百長疑惑をサッカー文化的側面から考える

2014年12月27日 下村正幸

札束入りのアタッシュケースで結果を操作する。

スペインと日本のサッカー文化には、小さくない違いがある。そこからアギーレの八百長疑惑を考える。何が見えるだろうか。 (C) Getty Images

 スペイン検察当局が告発状を提出したことで急展開を見せたのが、ハビエル・アギーレ監督の関与が疑われる八百長疑惑だ。進退問題にまで言及するメディアは少なくなく、とくに大手のスポーツ新聞社はその傾向が強いようだ。
 
 2010-11シーズン、アギーレが指揮していたサラゴサが、1部残留を懸けた最終節で対戦相手のレバンテを金銭で買収。試合結果を操作したのではないかというのが、この八百長疑惑である。
 
 告発状の提出で捜査が始まることになったとはいえ、当然のように現時点では何も証明されておらず、アギーレ自身も関与を全面的に否定している。
 
 リーガ・エスパニョーラでは、シーズン終盤を迎えると毎年のように「マレティーネス」という言葉が頻繁にメディアに躍る。マレティーネスとは日本語でアタッシュケースの意味。札束入りのアタッシュケースを用意して試合結果を操作するという隠語だ。
 
 よくあるのはこんな工作だ。あるいは優勝を、あるいは残留を、あるいは欧州カップ戦の出場権を争っているライバルと対戦するチームにマレティーネスを届け、本気で戦ってもらうという手の回し方だ。
 
 逆に言えば、スペインでは終盤になって目標がなくなったチームが、途端に無気力になるというケースが少なくない。こうした不健全な状況を改善するために、マレティーネスのような"第三者による勝利ボーナス"を認めるべきだという意見が出ることさえある。
 
 もっとも、袖の下を受け取ってわざと負けるという直接的な行為には、彼らも拒絶反応を示す。アギーレが嫌疑をかけられているのはその直接的な八百長の疑惑であり、サラゴサはレバンテを買収して2-1の勝利と残留を買ったのではないかと疑われている。
 
 サラゴサの八百長疑惑がここまで追及されることになったのは、ひとつにはスペイン・プロリーグ機構(LFP)のハビエル・テバス会長の存在が大きかった。このテバスは昨年4月に会長の座に就くと、LFPに蔓延る事なかれ主義を打破し、リーガを浄化しようとバリバリやり出したのだ。サラゴサとレバンテはいわゆる中堅クラブであり、"見せしめ"として格好のターゲットでもあった。

次ページ生き馬の目を抜くような世界で、酸いも甘いも噛み分けた。

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