フットボールの魅力と伝統を“破壊”する「テクノロジー」【現地発】

2019年11月12日 エル・パイス紙

ハイライト映像を見て試合を観戦した気分に

たびたび物議を醸しているVARの導入もサッカー界に大きな変化をもたらした。(C) Getty Images

 フットボールを取り巻く環境の変化が、このスポーツが本来持つ魅力を蔑ろにしてしまっている。

 まず商業化の加速によって隅に追いやられてしまっているのがフットボールの文化的な側面だ。今シーズンのスーペル・コパ(スペイン・スーパーカップ)がサウジアラビアに舞台を移して来年1月に開催されるのはその最たる例だ。

 そして、テクノロジーの進化によって隅に追いやられてしまっているのがフットボールの伝統だ。エル・パイスの記者、ディエゴ・トーレスとのインタビューのなかで、リバプールのCEO、ピーター・ムーアはこう警鐘を鳴らしている。

「若者の興味や関心を引くという点において、フットボールとテクノロジーは敵対関係にある」

 この勝負、フットボールにとって厳しい戦いを予感せざるを得ない。
 
 さらにこのテクノロジーの進化は、フットボールの見方をも変えてしまった。若者をはじめ多くの消費者は、ハイライト映像をたかだか40秒でも見れば、試合を観戦した気分になっている。

 そしてその結果、隅に追いやられてしまっているのがフットボール談議に花を咲かせるという習慣だ。インターネットの速報性に対抗するための手段とはいえ、わずかな映像を見た程度では長く会話が続かいないのも当然と言えば当然だ。

 テクノロジーの進化はもちろんフットボールにも影響をもたらした。戦術に傾倒する考え方が蔓延し、その高まりに反比例して隅に追いやられてしまっているのがフットボールの芸術的な要素だ。戦術の進化が選手たちから自由を奪い、それがタレント軽視の風潮をさらに助長させている。

 はっきり申し上げよう。このまま時代の波に飲まれたままだと、フットボールそのものが隅に追いやられるばかりである。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
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