【連載】ミラン番記者の現地発・本田圭佑「共通の言語を話すインザーギとの深い信頼関係」

2014年12月17日 マルコ・パソット

インザーギは親しみを込めて「ケイ」と呼ぶ。

インザーギは本田の中に、かつて自分が持っていたようなサッカーに対する情熱、プロ意識と、心配り、誠実さを見出した。 (C) Studio Buzzi

 イタリアの老舗スポーツ紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のミラン番マルコ・パソット記者が、本田圭佑とミランを綴る連載コラム。毎週水曜日、とっておきの情報を現地直送でお届け中です。
 
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「ケイ」
 フィリッポ・インザーギ監督は本田圭佑をそう呼ぶ。"ケイスケ"が長いからでもあるが、それ以上に親しみが込められている。
 
 ピッポ(インザーギの愛称)は、本田にとって特別な存在だ。ミランでの3人目の監督であるインザーギと、本田はこれまでの誰よりも良い関係にある。
 
 その理由は簡単だ。インザーギの下で本田は、本来の本田に戻ることができたからだ。そう、ピッチで堂々と主役を張る本田だ。アドリアーノ・ガッリアーニ副会長がジョークで言ったような、「本田によく似た双子の弟」ではなくなったのだ。
 
 ケイとピッポは出会ってすぐに、"共通の言語を話す"ことに気付いた。もちろんこの場合の言語とは、イタリア語ではなくサッカーに対してのスタンスという意味だ。
 
 インザーギはほんの2年前まで現役の選手だった。だから監督と波長が合うかどうかが、選手にとってどれほど重要か、それをよく分かっている。インザーギが選手として最後に師事した監督と、本田がミランで最初に師事した監督は同一人物だ。そう、マッシミリアーノ・アッレグリ(現ユベントス監督)である。
 
 アッレグリは選手とあまり話をしないタイプで、そのためにインザーギはかなり苦労した。だからこそ、自分がチームの指揮を執る立場になったいま、選手時代にこうあってほしいと望んだ監督に彼はなろうとしている。
 
 その試みはほぼ成功しているだろう。出場機会の少ない何人かの選手は多少の不満を持っているようだが――欧州カップ戦に不参加のチームには28人のスカッドは大所帯だ――、それ以外の大多数はインザーギと共にある。
 
 オーナーのシルビオ・ベルルスコーニは、インザーギはまるで選手たちの一番上の兄のようだと表現した。私が見た印象もその通りだ。
 
 紅白戦ではインザーギがチームに入ったりする機会がよくある。自身の考えをすべて選手に説明することはないが――これは監督が絶対にしてはいけない。すれば逆効果である――、それでも一人ひとりとはよく話し、それがインザーギのミランのベースとなっている。練習はメリハリがあり、陽気にふざける時間もあれば、黙って汗をかく時間もある。
 
 前述したように、本田とインザーギは同じ言語を話すので、本田は監督がなにを望んでいるのか、それをすぐに理解した。一方、インザーギは本田の中に、かつて自分が持っていたようなサッカーに対する情熱と、プロ意識と、心配り、誠実さを見出した。
 
 ミラネッロ(ミランのトレーニング施設)には、「誰もが誰かの助けになる」という不文律が存在する。自分のことだけを考えるのではなく、全員で助け合うという精神だ。今シーズンの初め、インザーギは選手に向かってこう明言した。
「今シーズンから評価されるべきは、まず人として、プロとしての振る舞い。その後にテクニックだ」
 
 インザーギが本田を信頼するのは、このプロ意識に優れているからだ。本田はどんな時でも常にベストを尽くす。ミランに来てからは、チームのために自分を犠牲にできるようにもなった。前線でゴールだけを考えるのではなく、サイドを絶え間なく走り、守備に手を貸すことを覚えた。地味な仕事ではあるが、それを恥じる必要はまったくない。

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