【ルヴァン杯決勝|札幌】コンササポの大声援に「鳥肌が立った」。道民の想いをのせた深井一希の劇的弾の舞台裏

2019年10月28日 佐藤香菜(サッカーダイジェスト)

長期離脱に苦しんだ深井のヘッドが、札幌に可能性を残した

アディショナルタイムの4分台が終わろうとしたその時、奇跡的なゴールが生まれた。写真:田中研治

[ルヴァンカップ決勝]札幌3(4PK5)3川崎/10月26日/埼玉スタジアム2002

 前日の豪雨が嘘のような晴天となった26日、ルヴァンカップの決勝が埼玉スタジアムで行なわれた。

 ともに初のカップ戴冠を懸けて挑んだ札幌と川崎の大一番は、120分にも渡る死闘を繰り広げ、PK戦の末に川崎が勝利。初めての決勝という舞台で札幌は、過去対戦成績で25戦中1勝しかしたことのない強敵を相手に、熱いプレーで粘り強く戦い抜いた。

 札幌は、10分に菅大輝の今季公式戦初ゴールで先制点を奪うも、前半アディショナルタイムに阿部浩之の同点弾で追い付かれ、さらに終盤の88分という際どい時間帯に小林悠に逆転弾を決められ、状況は一転、窮地に立たされる。

 表示された4分のアディショナルタイムが終了に差し掛かり、前のプレーで鈴木武蔵が得た右コーナーキックが、ラストプレーとなった。キッカーの福森晃斗が正確な左足で中へボールを入れると、相手のマークを外して走り込んだ深井一希がヘッドで叩き込み、土壇場で同点に成功。勝敗の行方を延長戦へとつないだ。

 深井はこの時のシーンについて、「スカウティングであそこは狙い目だというのは言われていたので、あとは信じて走り込んだ」と振り返り、「あとはやっぱり……」と次のように続けた。

「あとはやっぱり、控えや怪我で試合に出られない人だったり、あれだけたくさんのサポーターの方が来てくれたら、やらなきゃいけないなという気持ちでした。最後になんとか、自分で決めてやるという気持ちが乗り移ったゴールだったのかなと思います」

 前日の大雨の影響で新千歳空港から成田空港への一部航空機が欠航となり、スタジアムまで来られなかったサポーターや、代替手段でなんとか埼スタまでたどり着いたサポーターたちがいることも聞いていたという。

 そんななかでの終盤、川崎サポーターに勝るほどの声量でさらにボリュームアップした札幌サポーターたちの大声援に、「あれは自分でも鳥肌が立った」と言い、「忘れられないゴール」になったという。

 深井は2013年に札幌のアカデミーから昇格し、プロになってからの5年間のうちに3度、膝の十字靭帯断裂という大怪我を負って満足にプレーできたシーズンが少なかった。それでも諦めずに何度も苦難を乗り越えて、ようやく主力の座を掴み取った苦労人だ。

「怪我の時も常に諦めないことは僕のテーマで、"絶対這い上がってくる"という強い気持ちは常にあります」

 そして、「こういう大事な試合に限らず一試合一試合本当に幸せで、サッカーができていることだけでも、幸せだなと毎日感じながらやっている。コンサドーレのサポーターたちは温かくて、怪我をした時もすごい励まされて。なんとか恩返ししていきたいと常に思っています。それがもう少し良い方向にいけば良かったんですけど……今日はちょっと残念でした」

 結果的には敗戦となってしまったものの、大きな怪我を乗り越えてきた精神の強さと惜しみなく大きな声援を送り続けてくれるサポーターへの感謝の気持ちが、土壇場での奇跡を生んだ要因だったのかもしれない。

取材・文●佐藤香菜(サッカーダイジェスト編集部)
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